104 かわいい食べ物④

 その違いになにか理由があるのか考えてみるが、ジェーンはカレンの期待した目から視線を下げた。


「……わかりません。自分でもどうしてこんなに惹かれるのか」


 もしカレンの言う通り名家の生まれだとしたら、家の者もジェーンを捜して騒ぎになっているかもしれない。

 けれど、ジェーンの家族や知人を捜索してくれているロンからは、一ヶ月が経っても進展したという話はなかった。

 私は誰にも捜されていないの? それはつまり……。


「単にジェーンの好みなんじゃないのか」


 にわかに、塞がりかけていた視界が開ける心地がした。ジェーンは弾かれるように向かい席のディノを見る。ディノはもうマイペースに湯呑みを傾けていた。


「そうね。ちょっと穿うがった見方だったかもしれないわ。ごめんなさい」


 テーブルから身を引き、ひざの上で丸めたカレンの手をジェーンは握った。ディノに教えられた気がする。そんな深刻に考えなくてもいいと。


「いえ。もし私がお嬢様だったら、カレンたちにたくさんお礼ができます。そう思うとうれしいですよ!」


 そっと手を握り返してくれたカレンとくすくす笑い合う。

 ジェーンはちらりとディノを見た。その視線に気がつき、ディノの目がかすかにほころぶ。陽光に照らされた彼の微笑みに、ジェーンも目を細めた。


「次はどこ行きたいの、ジェーン」

「日用品と食品売り場です」

「じゃあ地下一階ね」


 トレーを持ちながらカレンとそんなやり取りをし、席を立った時だった。イスの背もたれに置いていた本入りの紙袋が、褐色の手にひょいとさらわれる。

 ジェーンが口を開く前にディノは先回った。


「あんた、はぐれるなよ。迷子になったらな、ここで一生働くことになるんだ」

「そ……っ」


 そんなことはない、と打ち消そうとしたジェーンの脳裏に、一ヶ月前の自分が過る。

 ガーデンで目覚めて、記憶も身寄りもないとわかったらどうなった? ガーデンの整備士として働いているではないか! まさかロンの厚意ではなく、それが社会の不文律だったというのか。

 ということは、にこにこ笑顔の案内お姉さんにも悲しい過去が。

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