102 かわいい食べ物②

 窓際のよく陽の当たる席を取り、それぞれ食べたい店を選ぶ中、ジェーンはカレンについていった。カレンは安心させるように店の話をして、最後にくすりと笑う。


「演劇部だって高給取りじゃないわ。ケイオス地方の大都市なんて行ったら、私も卒倒するわね。きっと」


 ジェーンもつられて笑った。中央御園駅周辺よりも進んだ街なんて、想像しただけで足がすくむ。でもカレンといっしょになって青ざめたり驚いたりするのは、きっと楽しいに違いない。


「ジェーンはなに食べる? まずはパンかごはんか麺類かってところよねえ」


 メニュー看板を見上げるカレンにならい、ジェーンも迷う目をあちこち走らせる。すると、ひときわ硬派な看板が気になった。

 厳つい字で〈米米〉と書いてある。読めない。商品ケースを見てみると、白や茶色や黒のころころした三角形が並んでいた。


「カレン! あれはごはんですよね? なんか三角です!」

「え。あれって、おにぎりだけど」

「おにぎり!」


 ジェーンは飛びつく勢いでおにぎり屋に駆けた。たくさん並んだころころ三角を覗き込み、自然とのどが鳴る。

 なんだか無性におにぎりの三角形が愛らしく見えた。そしておにぎりという響きがますます、ジェーンを惹きつけてやまない。


「ジェーンはおにぎりにするの?」

「はい! とってもかわいいです!」

「かわいい……。そう言われると私も食べたくなってきたわ」


 ジェーンとカレンはおにぎり二個と、豚汁を注文することにした。おにぎりの具材は十二種もあって、のりに包まれた丸型もどれもかわいくて選べない。

 あとからやって来た客に五組ほど抜かれた頃、ジェーンは出汁で炊いた茶飯の肉そぼろとチーズおかかに決めた。


「遅かったっスね。店混んでたんスか?」


 席に戻ると、ルークとディノはもう食べていた。ルークはハンバーガーセットのポテトをかじり、ディノはそばをすすっている。


「そうじゃないんだけど、ジェーンのかわいいスイッチが入っちゃってね」


 苦笑しつつ席に着いたカレンのトレーを見て、ルークもあいまいに笑う。


「今度はおにぎりっスか。弁当でもベタ過ぎてみんな外してたから、ジェーンちゃんには未知の料理っスね」

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