101 かわいい食べ物①

「どういうことです?」


 ディノはジェーンを瞳に映してにやりと笑う。せつな見えた横顔が寂しげだったのは気のせいか。


「あんたが授業中、寝てたってこともあるだろ。元素も覚えてないようだし」

「だっ、だったらディノは百十八の元素全部言えるんですよね!?」

「待て。元素って百十二だろ。増えるのか……!?」


 ここに第一次元素数論争が勃発ぼっぱつ――する寸前で、ミステリー小説愛好家カレンの一撃によりあえなく鎮静化された。




 図書館をあとにしたジェーン、カレン、ルーク、ディノは、再び立体歩道を通って数軒先の百貨店に向かった。

 駅前で一番大きな店だと言うそれは、広大なスクランブル交差点の一角を陣取り、正面扉は回転式で赤いじゅうたんと吉兆の麒麟きりん像が客を出迎える。まるでホテルのような店構えだった。

 黒のパリッとした制服を着こなす案内嬢にお辞儀されながらの入店は、無闇に緊張させられる。しかし、さすが人に見られることを生業としているルークは、ここへきていつもより気の抜けた声をもらした。


「腹減ったっス……。見る前に昼にしないっスか?」

「そうね。ちょうどお昼時だし、いいんじゃない」


 腕時計からこちらへ視線を移したカレンに、ジェーンとディノもうなずく。

 中央のエスカレーターに向かったジェーンは、その長さに目をまるめた。両脇の一階分だけ昇るエスカレーターよりも二倍、三倍ある。案内看板によると一気に四階まで運ばれるらしい。

 店構えからして異彩を放つ百貨店は、中もすごい。ジェーンはちょっと心配になってきた。日用品や食品も買いたいのに、こんな店で食事して手持ちが足りるかしら?

 やっぱり別の店に、と言いたくても四階直行エスカレーターは途中で降りられない。

 七階。フードホール到着。

 一面ガラス張りのフロアに所狭しとテーブルセットが設置され、思い思いに食事を楽しむ客たちの雰囲気に、ジェーンはひとまず肩の力を抜いた。ずらりと並んだ飲食店のメニューを見る限り、金額も恐れるほどではない。


「昔は高級路線でやってたけど、今は安くてもいいものが手に入るようになったから。この百貨店でもそういう系列店をいっぱい入れてるのよ」

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