100 神話の絵本

 むかしむかし、あるところに空の神アダムさまと、大地の神イヴさまがいらっしゃいました。

 アダムさまとイヴさまはそれぞれ人間をお創りになり、たいそうかわいがられました。そして「このチカラでゆたかな国を創りなさい」と魔法をあたえたのです。

 アダムさまの民は大空の民、イヴさまの民は大地の民と呼ばれ、やがて人びとは大きくてりっぱな国を創りあげました。


 しかし、ふたつの国のあいだで争いごとがおきます。

 人びとは魔法のチカラを、争いごとにつかうようになりました。

 それを悲しんだアダムさまとイヴさまは、大空の王ロジャーさまと、大地の女王ジュリーさまを夢で会わせ、こう言いました。

「争いごとはやめなさい。なかよくしなさい」

 ロジャー王とジュリー女王は夢からさめると、すぐに争いをやめるよう呼びかけました。けれど、人びとの心はもうにくしみにとらわれていたのです。


 ロジャー王とジュリー女王は、耳をかたむけてくれた少しの民とともに、国をでました。そしてふたりで争いごとのない、平和な楽園を創りあげたのです。

 ロジャー王とジュリー女王はやがて恋におち、魔法の楽園でいつまでもしあわせに暮らしました。

 めでたし。めでたし。



「この楽園がクリエイション・マジック・ガーデンなんですね」


 ジェーンは絵本をディノに返しながらつづけた。


「こんなに悲しい背景があるとは知りませんでした」

「ガーデンの設定に戦争の背景まで組み込まれてるか知らないし、これもあくまで神話だけどな」


 絵本を手にして立ち上がったディノに、ジェーンは道をゆずる。脳裏にはアナベラの意地悪い顔が浮かんでいた。

 争いごとから勇気を持って逃げ、平和を願った人々の楽園。それを模したガーデンの一部が、アナベラのような人に占領されている。

 果たしてそれはロンの本望とするところなのか。やさしい恩人を思うと胸が重い。


「なあ」


 すれ違い様、ディノは振り返らないまま言った。


「この神話は、小学校でみんな習う有名な話だが、あんた知らないのか?」

「えっと。私にもなにを忘れて、なにを覚えているのか、その分野も範囲もわからないんです」

「覚えてないんじゃなくて、元々知らないってこともあるかもな」

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