99 いじわるディノ④

 それからジェーンはしばらくひとりで児童書コーナーを探索し、『空の不思議』や『鉱物の図鑑』といった創造魔法士に必要そうな本を選んでいった。


「あとは料理本かな」


 たしか雑誌はカフェに隣接して並んでいたはず。そう思いながら目を向けた時、カフェのソファに座るディノを見つけた。長い足を組み、非常に絵になる様でなにやら小さな本を読んでいた。


「あのソファに座ってる黒髪の男性かっこいいよね」

「わかる。モデルさんかな。足長い!」


 トレーで口元を隠して、ひそひそ噂する女性店員の声が流れてきた。ジェーンは今一度ディノを見て、上気する頬を自覚する。

 ディノが人目を引くほど、恵まれた体格と端正な顔立ちをしていることは、認めざるを得ない。その上、今は黒セーターで見えないが隆起するほどの筋肉を持ち、さりげない気遣いもできる人だ。

 ふと、本から顔を上げたディノと目が合った。彼はひらひらとジェーンを手招く。後ろの女性店員たちがざわめく気配を肌で感じながら、ジェーンはなんとなくうつむいて歩み寄った。


「もういいのか」


 ディノは縮込まるジェーンを怪訝そうに見上げた。


「まだ雑誌も見たいです」

「じゃあその本はここに置いていけ。それ以上身長が縮んだら、またゴミに埋もれるぞ」

「それさえなければ完璧ですのに」

「は?」


 思わず口をついた本音を聞き返されたが、ジェーンはなかったことにしてローテーブルに本を置かせてもらった。

 その際、ディノのひざに乗った本に目が留まる。それは絵本だった。青い鳥がとまる木の下で、王冠をかぶった男女が寄り添い合っている。

 ジェーンはすぐに神鳥アダムと源樹イヴ、ロジャー王とジュリー女王の絵だと気づいた。


「その絵本って……」

「ああ。神鳥アダムと源樹イヴの神話を元にした絵本だ。ガーデンのテーマにもなってる」


 読むか? と問われジェーンは手を伸ばす。それはこんな話だった。

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