98 いじわるディノ③

 ディノが指さしたのはじゅうたんで仕切られた背の低い本棚の区画――児童書コーナーだった。ジェーンはムッと顔をしかめる。

 あんたには字の少ない絵本がお似合いだ、とか言ってまたからかうつもりに違いない。


「なにふくれてんだよ。ほら、行くぞ」


 ところがディノは、ジェーンがわざわざあけた距離などなかったかのように手を取り、児童書コーナーへ引っ張った。

 よろめきながら連れてこられたジェーンを、じゅうたんに座り込んで本を読む子どもたちが不思議そうに見上げる。小さな手が持っているのはやっぱり絵本だった。


「ディノ! ここにはないです。からかってるならやめてください」


 ジェーンはひそめた声でディノを咎める。ほら、長身を半分に折るほどの本棚の低さからして、場違い感が出ている。わずかな希望を持ってジェーンはあたりを見回したが、子連れの親以外大人は自分たちしかいなかった。


「これなんかどうだ」

「だから――」


 マイペースなディノが取り出した本のタイトルをつい目で追いかけ、ジェーンの言葉が止まる。


「『マンガでわかる元素の世界』?」


 表紙のイケメンキャラに引き寄せられ、ジェーンは本を受け取る。

 めくってみると、マンガは元素を探し出す勇者の冒険物語となっていた。コミカルな展開ながら解説は要点をすっきりとまとめてあり、どんな身近なものに使われているかまで書かれていてわかりやすい。

 なによりイケメンキャラが、ダグラスと同じオレンジ髪だった。


「これです! まさに私が求めていたものです!」


 思わず本を抱き締め弾んだ声を上げる。するとディノは人さし指を唇にあて首をかしげた。

 ハッと気づいて、ジェーンは周りに視線を走らせる。こちらに注目している人はいなかったが、今の声は明らかに騒がしかった。

 うつむいて内省するジェーンの頭に、ぽんっとやさしい感触が落ちる。


「よかったな」


 言葉は素っ気なかったが、ディノの瞳は陽光に透ける葉のようにあたたかい光に満ちていた。頭をなでていった手はすぐに離れたが、残った感触が心をくすぐり、ジェーンはひっそり笑みをこぼした。

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