97 いじわるディノ②

 ジェーンは思わず駆け出して飛び乗る。


「外にもエレベーターがあるなんて! 雨とかで壊れないんでしょうか」

「そっかあ。ジェーンちゃんにはこういうのも新鮮なんスねえ」


 ルークから生あたたかい目を向けられて、はしゃぎ過ぎたと気づく。ジェーンはすまし顔を取り繕って、大人しく立体歩道まで昇るのを待った。

 立体歩道は〈東中央御園駅〉の構内から、ビル群の間を縫うようにして通っていた。


「今度は図書館に向かうわよ」


 そう言ってカレンは駅とは逆のビル群に向かって歩き出す。立体歩道の下には大きな幹線道路が走っていた。病院からロンの車に乗って通ったのはこの道だとジェーンは思った。

 立体歩道と繋がる百貨店やカフェ、薬局屋の入り口前を通り過ぎ、見えてきたのは白いビルだった。一見、会社の事務所でも入っていそうな建物が図書館だとカレンは言う。


「まずは受付でカードを作らないとね」


 カレンにうなずきつつガラスの自動扉を潜ると、コーヒーの芳ばしい香りがジェーンを包んだ。そのにおいに誘われて目を起こすと、どこまでも突き抜ける高い天井があった。

 壁は曲線を描き、すべて本棚になっている。それに沿ってゆったりと創られた螺旋らせん階段が伸び、段差に座って本を読む利用者もいた。

 そして螺旋の中心には、宙に浮かぶように小部屋が設置されている。床はすべて木材が使われ、一階のひと区画ではカフェが開き、木と豆とインクが香る心地いい空間となっていた。


「ここからは少し自由行動でいいかしら?」

「いいっスよ。一時間後にここに集合ってことで」


 円形の中央カウンターで貸出カードを作ったジェーンは、カレンとルークの提案にうなずいた。それぞれ好きな場所へ散っていくルームメイトを見送り、ジェーンも館内見取り図で目的の本の在り処を探す。


「なにが見たいんだ?」


 そこへディノが横から覗き込んできた。服が触れ合う近さに心は勝手に跳ねる。でもまだ銀行の一件を忘れていなかったジェーンは、一歩離れてから口を開いた。


「化学や自然を扱った入門書です。なるべくわかりやすいものがいいんですけど」

「ふうん。なら、あのへんがいいんじゃないか?」

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