86 女帝の黒い噂①
「思ったんだが、今のガーデンは雨天に弱い。晴れの時しか満足に遊べない遊具ばかりだからな」
「確かに。お客さんの数も目に見えて減りますね」
レイジの指摘にクリスもうなずく。ジェーンは毎朝、正門で見かける園の模型を思い浮かべた。森の迷路や
「まあウチがガーデンだから当たり前っちゃあ当たり前なんだが。でも俺は思いきって屋内施設を提案しようと思う!」
いつになく背筋を伸ばして、はっきりと目を開き宣言したレイジに、ジェーンは拍手で賛同する。こんなに覚醒したレイジははじめて見た。
「わー! 楽しそうです! どんな遊具にするんですか?」
「それは今から考える!」
レイジが堂々とのたまったとたん、クリスの首がガクッと落ちた。重そうな頭を抱え起こして、クリスは引きつった笑みを浮かべる。
「その企画書の提出期限っていつでしたっけ」
「三月末だ。約一ヶ月後だな」
「今から具体案練って試作創って、試行錯誤するとなるとかなりきついですよ。僕には通常業務があるし、ジェーンは……」
不安げな視線をジェーンに送って、クリスは先の言葉をにごす。
確かにアナベラに目をつけられ、まともな仕事がないのは褒められた状況ではない。だが好都合とも言えた。
「だいじょうぶです。午後は雑用の合間に抜けてこられると思います」
「いや、それはほどほどにしとけ。女帝はお前が開発に携わってるって知ったら怒り狂うぞ」
レイジは渋い顔で難色を示す。クリスを見れば同じように固い表情をしていた。
ふたりの先輩の間には不穏な空気が流れている。それはこれまでアナベラから感じた厳しさや意地悪よりも重く、肌にまとわりつくものだった。
ジェーンは本能が鳴らす警鐘に戸惑いながら、おそるおそる尋ねる。
「あの、女帝ってアナベラ部長のことですよね? なぜあの人はそこまで私を、その、嫌うのでしょうか……?」
レイジとクリスは視線を交わした。それにどんな意味があったのか、ジェーンには読み取れない。だが、ふたりの目には迷いが浮かんでいるようだった。
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