85 クリスの夢③

 尋ねたとたん、クリスの笑みが深まった。小首をかしげる仕草は愛らしいのに、ジェーンの肝はどんどん凍えていく。


「違うよね。ジェーンとレイジさんが僕にも考えて欲しいんでしょ」

「いあ、べ、別にそうとは言ってな――」

「ね?」


 語尾にハートでもつきそうな甘い声で、首に巻きつくロープがえることもあると、ジェーンははじめて知った。




「え。クリスも開発に加わりたいのか?」


 翌日の昼休み。更地に佇む丸太山のふもとで、ジェーンはレイジにクリスも新遊具開発に参加してもいいか尋ねた。ところが、クリスの複雑なひねくれ心を理解していないレイジは、ずばりと図星を突き刺してくる。

 ジェーンは慌てて訂正した。後ろでむすりと腕を組むクリスにも聞こえる大声で。


「違います! 私がクリストファー先輩様にお願いしたんです!」

「お前洗脳でも受けたのか」


 正しくは脅迫だが、ここでうなずくわけにはいかない。艶笑えんしょうの暗殺者の視線が、ひたりと首に押しつけられている。


「と、とにかく! クリストファー先輩様はデザインのセンスもいいですし、いてくれて助かること間違いなしです。ほら、三人寄ればもんじゃの知恵ってやつです!」

文殊もんじゅの知恵な。確かに不安になってきたわ。まあ、別に構わねえけどよ。でも意外だな」


 レイジはクリスに視線を移してにたりと笑う。


「今まで優等生面して女帝から逃げてきたお前が、指示されてないめんどうごとに首突っ込むなんてよ。反抗期か?」

「別に。先輩の僕を差し置いて、ジェーンが大きな仕事に携わるなんてしゃくですから」


 それに、と視線を下げたクリスの指が、スケッチブックを握り締める。


「僕も新しいことをやってみたくなったんですよ……なんとなく」

「なんとなく、ね」


 クリスの言葉尻をくり返しながら、レイジはなぜかジェーンを見た。きょとんと首をかしげたが、笑みではぐらかされる。


「で。新遊具の方向性を今一度考え直してみたんだが」


 レイジは丸太に寄りかかると、ジェーンとクリスを順に見ながら切り出した。

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