66 ロンの心配事②
「今はまだ小さな仕事しか任されませんが」
紅茶の水面から顔を上げ、ジェーンはロンの目をしかと捉える。
「いつかきっと一人前の整備士になって、どんな仕事もこなせるようになります」
「楽しみだね。ジェーンくんはきっとうちのエース整備士になれるよ」
ロンの期待に笑みで応え、ジェーンは紅茶をひと口飲んだ。葉の香りを楽しみつつ、気になっていた絵を手で示す。
「その絵はガーデンの絵ですよね。右下の雲がかっているところはなんですか?」
ロンは軽く振り返って絵を見上げる。
「ああ。ここは開園当初からずっと雑木林だったんだよ。ここにもお客さんを楽しませる遊具を創りたいと思っていたんだけど、手を入れるべきところが多過ぎてあと回しになってしまってたんだ」
ジェーンはそこでハタと思い至る。
「そこを今レイジさんが新遊具開発にあたっているんですね!」
「ふふっ。当たりだよ。春の目玉としてお客さんに披露したいんだ。でもちょっとだけ心配でね……」
「なにかありましたか?」
ロンはカップを置き、両手をすり合わせた。視線は遠慮がちにローテーブルの上をさ迷う。
「ジェーンくんも見たよね。レイジくんはいつも遅刻ギリギリに出社してくるんだ。それに勤務態度も怠けるわけではないけれど、いいとも言えない。彼もいい歳だから、やりがいのある仕事を任せれば意識を変えてくれるんじゃないかと期待したんだ」
だがロンの思いはレイジに届いていない。出社時間に五分と余裕を持たせたことはないし、アナベラがいなくなれば机に突っ伏している。
一度いびきをかいていたから、あれは間違いなく居眠りだ。
「まあ、いざとなったらアナベラ部長が手伝うと言っていたし、今しばらくは信じようと思う」
紅茶を飲み終わったところを見計らい、ジェーンは園長室から退室した。地下通路を歩きながら、レイジと新遊具開発のことを考える。
幸い、アナベラからはこのまま昼休みに入ってもいいと許しが出ている。時間はたっぷりあった。
「ちょっと行ってみようかな」
ロッカー室に戻り、お弁当が入った紙袋とペットボトルの水を持って走る。ジェーンが向かったのは、清掃部事務所脇のエレベーターだ。
そこから地上に昇り、ゴミ置き場に背を向けて進む。
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