65 ロンの心配事①
アナベラの言っていた青い屋根の家はひとつしかなかった。小道の奥にひっそりと佇む背の高い家は、ブルーベルの帽子をかぶっている。
納屋のような木扉には鍵がかかっていて入れない。ジェーンは二階を見上げた。
「あそこから入れるのかな?」
脇には外階段がついていて、二階に繋がっている。鎖で通せんぼしてあったが、ジェーンは従業員だ。跨いで進み、二階の扉をノックする。
「やあ、ジェーンくん。きみが日誌を届けに来てくれたのかい。うれしいよ」
深い青緑色の目をやわらげ、にこにこ笑うロンが出迎えてくれた。園長はジェーンを中へ通し、紅茶をすすめる。
「ひと息いれていきなさい。少し話を聞かせて欲しいんだ」
玄関扉からすぐのところにソファとローテーブル、そして奥に執務机と本棚、簡易キッチンがある。外観の印象よりは広々として、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
「驚きました。ロン園長の執務室がガーデン内にあって、こんなにかわいらしいだなんて」
ソファの前に立ったジェーンの目に、壁にかかった一枚の絵画が留まる。それはガーデン全域を描いたものだった。
しかし雲の城の下方だけ雲がかかっている。
「ふふっ。お客さんの反応を直に感じたくてね。それにここは居心地がいいんだ」
紅茶をいれてくれたロンがソファに座るのを待ってから、ジェーンも腰を下ろした。
ローテーブルに用意されていたミルクと砂糖を加え、マドラーで混ぜる。白く細長い尾を引いて、ミルクは茶色い渦の中に溶けていく。
「整備士の仕事はどうだい。慣れてきたかな」
紅茶をひと口すすってからロンはゆったりと問いかけた。
「はい。まだ戸惑うこともありますが、少しずつ慣れてきてます」
「それはよかった。アナベラ部長は癖の強い人だと聞くから、ちょっとだけ心配してたんだ」
ジェーンの舌に苦味が広がる。
整備部の身内に対する横暴な態度から、外部の人間へ愛想を振りまく変わり身の早さは、確かにとんだ曲者だ。それに新人で、創造魔法士としては素人なジェーンには、掃除しかさせない厳しい一面もある。
でもロンが言っていたように、整備士の仕事は客の安全に関わる。魔法士の道が険しいのは当然だ。
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