62 園長室へのお使い①

 当然そんなことではジェーンは手持ちぶさたになる。特に午後はなにをしたらいいかわからない。事務所に留まっていることが多いレイジとアナベラは、相変わらず話しかけるなオーラを放っていた。

 それでもなんとか食いついて、制服を洗濯に出す仕事や依頼書――クリスとノーマンがいつもバインダーに挟んでいる用紙――の作成を覚えたが、それもすぐに終わる。

 午後のゆったり流れる時間がジェーンには苦痛だった。仕事を与えないくせに、アナベラは役立たずと言いたげな目でにらんでくるのだ。

 実績がなければ創造魔法士としての仕事はもらえない。けれど、その実績を上げる場は素人には巡ってこない。まるで出口のない迷路を歩かされている気分だ。


「アナベラ部長、なにか仕事はありますか」


 ジェーンは今日も内心どんより重い雲を抱えながら、いつもの質問を口にする。いっそ定時まで好き勝手に過ごすという考えはジェーンにはない。

 ロンはジェーンの働きに期待してくれている。そして、衣食住のすべてを世話になった恩人たちに報いるためには、これしかなかった。

 どうせまた迷惑そうな目で見られるんだろう。そう思っていたジェーンに、なにやらしきりに電話と時計を気にしていたアナベラはにっこり笑いかけた。


「いいわよお。それじゃこの日誌を園長室まで届けてもらおうかしら。ニコライとラルフの夜勤報告が書かれた大事な日誌よ。確かに届けてね」


 たまに来る他部署の者に使うよそ行きの声と言葉遣いだった。ジェーンは面食らって、ずっしりした日誌を半信半疑で抱える。


「え、いいんですか。そんな大事な仕事を私がやっても」

「もちろんよ。これからは毎日やってもらうわ。あ、園長室ってわかる? 大地の国の街並みにある青い花の屋根の家よ。行けばわかると思うわ。もし不在だったらポストに入れておいて」

「大地の国の街並み? 園長室ってガーデン内にあるんですね! わかりました。行ってみます」

「お願いね。終わったら少し早いけどお昼休み入っていいわよ」

「ありがとうございます」


 ジェーンは駆け出したい気持ちを抑えて、足早に整備部事務所をあとにした。

 なんだか知らないが今日のアナベラは機嫌がいいらしい。日誌を渡してからは、うっとりと時計を見つめていた。

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