63 園長室へのお使い②

「これもお使いには変わりないけど。でも少しは認めてくれたのかな」


 なによりアナベラから遠く離れてロンと会えることに胸が弾んだ。ちょっと不謹慎な考えだが、誰だってにらみつけてくる人よりにっこり笑いかけてくれる人のほうが好きだろう。

 そう思うと、さっさと仕事を済ませてしまうのは惜しい。ジェーンは中央食堂に差しかかったところで歩調をゆるめた。散歩を楽しむように園芸部などの事務所がある区画へ入っていく。


「ディノいるかな?」


 園芸部事務所前を通りかかる時、きょろきょろと探してみた。しかし廊下に人影はなく、扉の向こうは静まり返っている。隣の販売部事務所からは、女性たちのにぎやかな話し声が聞こえた。

 自動販売機コーナーの一画にエレベーターがあることは、トイレットペーパーの補てんをしに来た時に把握している。ここから地上に上がれば、源樹イヴの根元に出られるはずだ。


「よし。大地の国の街並みはここから近いよね」


 高く露出した白い根っこに隠れている従業員用出入口から出ると、思った通り源樹イヴの根っこレストラン近くだ。

 芝生や木立を突っ切って直線で街並みに行くこともできそうだったが、ジェーンは迷わないように客と同じ木道を選んだ。

 ここで目覚めたあの日のことが脳裏を過る。ここがどこかもわからなくて、冬なのに自分だけ薄着で、寒くて心細くて人目が怖かった。

 今の私はみんなにどう映るんだろう。

 日誌を胸に抱え直し、歩き出す。

 平日のよく晴れたクリエイション・マジック・ガーデンには、お年寄りや小さな子どもを連れた母親の姿が目立っていた。天気に恵まれたお陰か、思っていたよりも多い利用客を横目にジェーンは道の端を歩く。


「あ。まほう使いさんだ!」


 ふと、前から来た男の子がそう言ってジェーンを指さした。内心ギクリとした。日々、掃除と雑用しかこなしていないジェーンでも、青いショートローブの制服を着ていれば、ガーデンの魔法使いということになる。

 男の子はなにか期待した目で見ていた。創造魔法士らしくなにかを創ってみせるべきなのか。静かに慌てふためくジェーンのことなど露知らず、男の子は小さく手を振った。

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