第3章 新遊具開発企画
58 ふたりきりのお弁当作り①
シンと静まり返った玄関ホールに息をひそめ、足音を立てないように階段をゆっくり下りていく。キッチンにつづく両開き扉を開けてそろりと覗き込むと、ダグラスがいた。
「おはよう」
彼はすぐにジェーンを見つけて笑いかけてくれる。
「おはようございます。今日のお弁当当番はダグラスなんですね」
内心の喜びがパタパタと駆け寄る足音に表れた。しかしダグラスはそれに気づいた素振りもなく、パスタの袋を持ち上げてはにかむ。
「そ。凝ったものは作れないけどな。簡単なケチャップナポリタンにしようかと思うんだ。プルメリアやカレンのあとじゃ気が引けるよ」
「ふたりともすごく料理上手ですものね」
ジェーンはおとといと昨日のお弁当を思い出し、深くうなずく。
プルメリアはサンドイッチだった。千切りのにんじんや紫キャベツを使ったとても色鮮やかな見映えで、食べるのがもったいないくらいだった。
カレンはお子さまプレートを再現したランチボックスを作った。小さなエビフライやハンバーグに、ゆでたまごやミニトマトを添えて、真ん中はもちろん半円のチキンライスだ。
「そうそう。あとルークだよな。あいつ何気に料理上手っていうか、しゃれてんのがムカつく」
お弁当当番は言い出しっぺということでルークからはじまったのだが、彼の作品にはルームメイトみんなが驚いた。
バゲットにチーズやパプリカを乗せたピンチョスを作ってみせたのだ。とりわけ、生ハムを花びらに、ミニトマトを赤い実に見立て串で固定したものは女性陣から絶賛だった。
「あんなの酒好きがつまみにもちょっとこだわってるだけだっつの」
ダグラスのぼやきを聞いて、ジェーンはハタと気づく。そう言えば自己紹介の時に挙げていた好きな食べ物――生ハムやスモークサーモンも酒のあてにぴったりな品ばかりだ。
少し悔しそうなダグラスをかわいいと思うのは内心だけに留め、ジェーンは手を洗ってにっこり笑いかけた。
「では、とびきりおいしいナポリタンを作りましょう!」
きょとんと目を瞬かせたダグラスは、ふと息を抜くように小さく笑った。まだ朝陽が昇る前の薄闇の中、キッチンの簡易照明に照らされたその顔は、少年のあどけなさと大人の深みを併せ持つ。
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