39 新人の仕事?②

 懐が広く、ダグラスたちから慕われているロンを罵った態度には疑念を抱くが、アナベラが創造魔法士としてジェーンを信用できないことにはうなずけた。


――きみ、ここ向いてないから。


 そう言ったクリスの声が脳裏に響く。部長だけじゃない。整備部の者全員がきっと、記憶障害のあるジェーンを不安に思っている。


「認めてもらうには、やるしかない」


 女子トイレを示す、源樹イヴを模した緑のマークを見上げる。


「まずはここから」


 深く息を吸って気持ちを改め、ジェーンははじめての仕事に取りかかった。




 ジェーンの想像に反し、トイレ掃除は苦難の連続だった。まず、なにがどこにあるかわからない。単純な問題だが清掃道具がなければはじまらず、ホースや洗剤のありかをいちいちアナベラに聞きにいかなければならなかった。

 そんなジェーンをアナベラはしょうもない子どもを相手にする目で見つめ、めんどうくさそうに答えた。質の悪いことに、アナベラの機嫌はジェーンが顔を見せるごとに傾いていった。

 モップがけなんかよりもジェーンの心身に負担をかけたのは、上司との会話と言って間違いない。

 そうしてやっと見つけた道具も使い勝手がわからず、便器に流し用の洗剤を振りかけたり、水流の勢いを誤ってホースを暴走させたりした。

 お陰で濡れた壁を拭くはめになった時は、自分は鈍くさい人間なのかもしれないとため息がもれた。

 四苦八苦しているところへトイレの利用者が来れば、当然作業は中断となる。近くにいるのも悪いかと思い、ジェーンは何度か外で待ちぼうけを食らった。


「はあ。やっと終わりました……」


 十個の便器を磨くところからはじまり、ほうきがけ、モップがけ、手洗い場掃除。そして事務所の机と床を掃除して、ゴミをまとめた時には十一時半になろうとしていた。

 アナベラはいつの間にか席を外していたが、これでひとまず掃除仕事は認めてくれるだろうと安堵の息をつく。


「ふたりはまだ帰ってこないなあ。どんな仕事してるんだろ」


 ジェーンはクリスとノーマンの机を見ながらつぶやいた。事務所には今レイジとふたりきりだ。レイジは朝から机にかじりついて、なにか書き物をしているようだった。

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