40 新人の仕事?③

 整備士にも書類仕事があるのかな?

 気になって中堅先輩の様子をうかがう。


「あれ。もしかして寝てる……?」


 ショートローブのフードで顔は見えないが、レイジは机に突っ伏して微動だにしていなかった。するとますます興味をそそられて、ジェーンはこっそり忍び寄る。

 首を伸ばし、手元を覗き込もうとした時、銀髪の間からこちらを射抜く空色の瞳とぶつかった。


「なんだよ」


 かすれた声で気怠げに問いながら、レイジは広げていた書類をひっくり返した。


「いえあのっ。あ、まとめたゴミはどこに持っていけばいいでしょうか」


 ジェーンはとっさに隅に置いたゴミ袋を指して誤魔化した。


「清掃部の横にあるエレベーターから上がれば物置きがある。そこに放り込んでおけ」


 米神を掻きながらレイジはつづけた。


「俺は今忙しいんだ。質問は他のやつにしろ」


 机に突っ伏してましたよね? とは、ジェーンは賢明にも口にしなかった。素直に返事して、ゴミ袋を両手に事務所を出る。

 廊下に誰もいないとわかると、つい愚痴が込み上げてきた。


「他のやつって、誰もいないじゃん」


 清掃部の事務所横に見つけた大きなエレベーターに乗り込む。閉じていく扉を見つめてこぼれたため息は、ジェーンさえ気づかなかった。


「ジェエエエンッ! どこ行ったんだあの小娘!」


 ゴミを捨てにほんの五分ほど離れていた間に、ジェーンを呼びつけるアナベラの怒声が廊下まで充満していた。

 慌てて戻ると、上司は目をつり上げてジェーンをにらみ、無言でトイレまで引っ張っていく。個室トイレの棚に指を突きつけまくし立てた。


「予備のトイレットペーパーがないじゃないか! きちんと二個そろってるのは三ヶ所しかなかったよ! 用を足すのに紙を使うことも忘れたのか!?」

「あの、予備がどこにあるのかわからなくて……」


 おそるおそる答えたとたん、アナベラはこぼれんばかりに目を見開いた。天井を仰ぎながら吐き出されたため息が壁に反響する。


「これだから嫌だったんだよ。お前はここに掃除婦として雇われたのか? え? なければ創ればいいだろ! 創造魔法士なんだから!」

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