34 最悪の第一印象①

「ああ。見えてきたね。あそこが整備部の事務所だよ」


 ロンの言葉にジェーンの心は緊張した。ブックスタンドのような形をした駐輪止めに、何台か自転車がある。その横にすりガラスのはめ込まれた扉が見えた。

 一体どんな人たちがいるんだろう。

 仲よくなれるかな。同世代の女の子がいたらいいな。


「あれ。あの自転車……」


 大いなる不安と小さな期待をふくらませるジェーンの目に、一台の黒いマウンテンバイクが留まる。さっきぶつかりそうになった人のものと似ている。とても小柄なショートヘアの人だった。

 きっと女の子に違いない!


「アナベラ部長、失礼するよ」


 扉をノックして、ロンは声をかけながら中に入った。女性らしき部長の名前に、また少し緊張をやわらげたジェーンもあとにつづく。

 事務所内は中央に向かい合って六つの机が並べられていた。

 一番扉から近い席に座るショートヘアの子が、くりくりとした愛らしい目を上げる。マウンテンバイクの女の子だ。色白の肌に深い青い目がとても美しい。濃紺の髪は襟足が少し長めで癖がなく、あどけなさの残る輪郭に沿って流れている。

 彼女の青い目がロンからジェーンに移った時、部屋の奥からイスのきしむ音が激しく鳴った。


「ロン園長! 首を長くしてお待ちしておりましたわ。なんせウチは万年人手不足。新人はいつだって大歓迎ですもの!」


 イスが悲鳴を上げるのもうなずける。ひとつだけ扉と対面した大きな机から立ち上がった女性は、ベルトがはちきれんばかりの豊満な体の持ち主だった。

 パーマをあてた短めの金髪といっしょに、整備士の制服を押し上げる胸元が揺れる。濃いアイシャドウに縁取られた茶色の目がジェーンを映し、まっ赤なルージュをひいた唇がにっこり微笑みかけてきた。

 やけに色白だと思ったが、化粧が厚いだけかもしれない。

 ぷうんとなにか香水のにおいがして、無意識にあとずさろうとしたジェーンはぷっくりした手に肩を掴まれた。


「あなたがジェーンちゃんね。かわいくて利発そうな子! 私はアナベラ。整備部の部長よ。事情は園長から聞いてるから、あなたはなにも心配しなくていいのよお!」

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