33 初出勤⑥

 身支度を終えた従業員たちが中央の廊下へ吸い込まれていくように、ジェーンとロンもその流れに乗って歩く。廊下はすぐに巨大なだ円形を描く広間と合流した。

 すると従業員たちは線路の分岐器が切り替わったように、それぞれの目的地へと分かれていく。だいたい三方向あるようだ。

 ジェーンはロンが歩むままに右へ進みながら、目の前に広がる円形の空間と人々が進む方角に既視感を抱いた。


「ここってもしかして、池の真下ですか?」


 驚いたようにまるまったロンの目が振り返る。


「よく気づいたね。そう、この地下空間は地上の道に沿って創られているんだ。地上のどこへ向かいどこに出るか、把握しやすいようにね」


 たとえば、とつづけながらロンは後方――ロッカーから左手にある廊下を指す。


「ディノくんが所属する園芸部や販売部なんかは、源樹イヴ方面にあるよ。彼らは主にそっちで仕事をするからね。それから」


 今度はロッカーから正面の廊下にロンは顔を向ける。


「あっちの奥は原っぱのステージがあるところで、ダグラスくんたちの演劇部がその下にあるんだ」

「この広場は食堂でしょうか」


 ジェーンはだ円形の真ん中にたくさんのイスやテーブルが置かれているのを見て、そう思った。円の中心にはさらに小さな円形のカウンターがあって、コロンや流し、ぶら下がった調理器具などが見える。


「うん。この社員食堂にはすべての部署の人たちが集まるんだ。そういう場所が欲しかった。だから真ん中にしたんだよ。居心地がいいってなかなか評判なんだ」


 テーブルの数以上に観葉植物が多い食堂を、ジェーンは改めて見回した。廊下と食堂を隔てる縁には花壇が設けられ、淡い桃色に黄色がにじむ小振りな花が咲き乱れている。

 そして天井には照明つきのシーリングファンがゆったりと回転して、おだやかな空気の流れを生んでいた。


「昼休みになったらここへおいで。料理も絶品だよ」

「はい。楽しみです!」


 ジェーンとロンは食堂から逸れて右の区画へ入っていく。〈清掃部〉と書かれた扉を横目に見つつ、左へ曲がった。

 ジェーンは現在地を正門前で見た模型と照らし合わせてみた。こちらはきっと白い城が建っていた方面だ。


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