30 初出勤③

「わあ……! これがクリエイション・マジック・ガーデンなんですね」


 ジェーンは思わず駆け寄り、模型を覆う半円形のガラスを覗き込んだ。

 黒い正門からまっすぐに道が伸び、それはすぐに花畑に囲まれた池とぶつかる。池では水鳥が泳いでいて、クワックワッと鳴き声が聞こえてきた。

 池の外周を大きく回りながら浮遊する金色の川も、その流れがはっきりと見える。看板には〈ミルキーウェイ〉と書いてある。ボートが光流こうりゅうに乗って進み、あふれた光が星になってキラキラ降り注いでいた。

 そして池沿いのレンガ道は三方向に分かれていて、ひとつは木道に繋がっていた。

 この道を覚えている。目が覚めてすぐそばにあった道だ。だが、人目に堪えかねて木立の中に逃げ込んだ。その森林地帯は〈森の迷路〉というらしい。

 木道をさらに奥へ進むと、源樹イヴに辿り着く。そこは〈根っこのレストラン〉と書いてあった。そういえば食器の音がよく響いていた。


「私はあそこにいた……」


 源樹イヴの模型から目を起こす。正門など足元にも及ばず、天を突き上げる巨樹の姿がここからでもよく見える。風に青い葉がゆったりとそよぎ、光輪が煌々と輝いていた。

 隣に立ったロンに、ジェーンは問いかけずにはいられなかった。


「私は、どこから来たんでしょう。なぜガーデンにいたのでしょうか」

「……僕のほうでもできる限り、きみの家族や知人を捜してみるよ。だけど焦らないで。じっくり記憶と向き合う時間を作るためにも、まずは生活基盤を固めよう」

「そうですね。ロン園長の言う通りです。これ以上ご迷惑をおかけするのは心苦しいですが、どうかお願いいたします」


 頭を下げようとしたジェーンを、ロンは手で制した。腕時計をちらりと見て、おどけた顔をしてみせる。


「おっと。そろそろみんなが出勤してくる時間だ。慌ただしくなる前に先を急ごう」


 ロンにうながされて、ジェーンは正門脇の従業員専用と書かれた扉を潜った。中には三基のエレベーターがあり、ボタンは下向きの三角形ひとつだけだ。


「左側の扉の先にもエレベーターがあるけど、女子ロッカーは右から行くと早いよ」

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