29 初出勤②
「ここは上りも下りの電車も停車する駅だからね。ジェーンくんが乗るのは上りの〈東中央
ごくりとつばを飲み込む。
「遥か遠い西回りで五時間かかってしまう!」
「ひいっ! 遅刻確定です! 乗り換えはできないんですか!?」
「いや、できるよ」
できるんかーい! ジェーンの脳内に住むミニ・ダグラスが渾身のツッコミを入れた。
「ふふふ。今のは冗談だよ、ごめんね。でも、うっかりうたた寝してしまった社員が西の郊外まで運ばれて終電も逃し、帰れなくなった。なんて話も聞くから気をつけてね」
「うっ。慣れるまでは時間に余裕を持って出勤します」
それはいい考えだね、とロンが微笑んだ時、チンッと鐘を鳴らしながら路面電車が近づいてきた。
『次はガーデン前。ガーデン前でございます』
女性のアナウンスが流れて窓の外に目を向けると、背の高い黒い門が見えた。本当にガーデンの目の前が停留所らしい。覚えやすい通勤路に人知れず息をついたジェーンをうながし、ロンは電車の先頭へ移動する。
車体がゆっくり停止すると同時に扉が開き、ロンは箱に運賃を投げ入れながら言った。
「ジェーンくんは定期券があるね? それを運転士に見せて」
ジェーンは慌ててロングスカートのポケットを探り、えんじ色のケースに入れた定期券を取り出した。これも今着ている服も、ロンに追加で買ってもらったものだ。
自分が情けないような申し訳なさがまた込み上げてきて、ジェーンは先に降りたロンを追う。
「すみません。なにからなにまでお世話になってしまって……」
「もちろんタダじゃないよ。きみには労働で返してもらうからね。僕はきみの魔法の才に期待しているんだ。これは言わば未来投資だよ」
そう言いながらロンはまるで舞台俳優のように気取った仕草で両手を広げた。そしてジェーンへ道をゆずるように身を引き、片手をなにかに差し向ける。
「我が魔法の
そこには小さな源樹イヴと、雲に乗って浮遊する白い城が、対となって鎮座するガーデンの模型が置かれていた。
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