第2章 ガーデンの整備士たち
28 初出勤①
ドアノッカーの重々しい音が玄関ホールに響く。そわそわとリビングを歩き回っていたジェーンは、柱時計に目をやった。午前八時。電話で話した約束の時間ぴったりだ。
「おはようございます、ロン園長」
来訪者が誰かわかっていたジェーンは、すぐに玄関扉を開ける。霜降り立ち、吐息を白く染める一月の朝日の中、ロンは帽子とそろいのトレンチコート姿でポーチに立っていた。
「おはよう、ジェーンくん。準備はいいかい?」
目尻のしわを寄せて、老紳士は青緑の目をおだやかに細める。ジェーンはちょっと緊張しながらうなずいた。
ダグラスとルーク、ディノ、プルメリア、カレンたちとルームシェアをはじめて一週間。園長のロンと打ち合わせや手続きを経て、今日、整備士としてクリエイション・マジック・ガーデンへの初出勤日を迎えた。
昨夜から落ち着きのなかったジェーンを励ましてくれた演劇部四人組みは、整備部より一時間早い八時出勤ということでもう出ている。そして園芸部のディノは整備部と同じ九時出勤だが、不馴れなジェーンはロンといっしょに少し早めに出勤することになっていた。
「ここから五分くらい歩いた先に路面電車の停留所がある。コンビニの前だよ。そこから電車に乗って十五分も揺られればガーデンに着くんだ」
ロンの案内を熱心に聞きながら、ジェーンは住宅街を歩く。やがて二車線の大きめな道路に出た。ロンの言っていたコンビニはすぐにわかった。道路に出て右に曲がった目と鼻の先に、背の高い看板が見えた。
「道を渡る時は注意してね。このへんはそれほど交通量が多くないから、赤信号になれば安全に渡れるよ。遅刻しそうになっても慌てないこと」
老紳士の言う通り、赤信号でできた車の列はそれほど長くなく、視界を妨げない。だがジェーンはなんとなく急かされて、ロンの背中を小走りで追いかけ渡った。
道の真ん中には離れ小島のような停留所がぽつんと浮かんでいた。
「ここが最大の難関です」
突然、口調も顔つきも改まって振り返ったロンに、ジェーンはびくりと肩を震わせた。
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