27 よろしくねジェーンさん⑤

 白髪をおさげに結ったジェーンという女性が、今日からシェアハウス生活をはじめようとしている。


「よろしくね、ジェーンさん」


 他人事と思ったほうがよほどしっくりときた。

 ようやく新生活への期待が不安を勝ってきて、私はベッド脇の窓も開けてみた。こっちは玄関ホール側だ。吹き抜けになった一階の廊下が私の眼下に広がっている。


「わあっ。寝坊したらここから飛び下りれば近道になる」


 そんなあり得ない冗談を言ってひとり笑う。ふと顔を起こした時、向かいの窓辺から若葉色の目がこちらをじっと見ていた。


「ディ、ディノ!?」


 そうか。角部屋の向かい側がディノの部屋ということは、吹き抜けを挟んで私の部屋と向き合っているということだ。

 そして向こうもどうやら吹き抜けに面して窓とベッドが設置されているらしい。ディノは窓枠にもたれて頬づえをつくと、かすかに口元に笑みを浮かべた。

 私は頬がカッと熱くなって慌てて窓とカーテンを閉める。ひれ伏すようにベッドにうずくまり、口を押さえて叫んだ。


「さっきの冗談聞かれたあああ!」


 これが私、ジェーンの新しい生活のはじまりだった。

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