25 よろしくねジェーンさん③

 よかった、とプルメリアはカレンと微笑みを交わし、奥の部屋へ向かう。私もそのあとにつづこうとしたが、ダグラスとルーク、ディノの姿が見当たらないことに気づいた。

 振り返れば男性三人は階段口からこちらをうかがっている。目が合うと、ダグラスがどこかバツが悪そうに口を開いた。


「あー。なんとなく踊り場の右から向こうは女子の領域ってなっててさ」

「そうそう。俺らは入りづらいんスよねえ」


 苦笑を浮かべるルークの後ろで、階段の手すりにもたれるディノもかすかにうなずいていた。


「わかる。私たちも左は行きづらいわ」

「別に入っちゃダメとか決めてないんだけどね」


 いつの間にか戻ってきて、私の背中にくっつきながら同意しているカレンとプルメリアに驚く。

 ダグラスは後ろの男性個室がある区画を軽く振り返った。


「間取りは女子のほうと同じなんだ。突き当たりにトイレと脱衣所、風呂があって。手前に俺の部屋。角がルーク。その向かいがディノだ。だいたいこんな感じだな。わからなくなったらまた聞いて」

「ありがとうございます、ダグラスさん。みなさん、記憶障害のことでご迷惑おかけすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします」


 私はルームメイトの顔を順に見て話し、最後に深くお辞儀をした。するとダグラスがからからと笑って、私の肩をぽんっと叩く。


「そんなかしこまらなくていいよ。呼び捨てでいいし、敬語もいらない。歳近そうだしさ、俺たちと同級と思って気楽にして。なあ?」


 最後の呼びかけは後ろのルークとディノに向かって投げかけられた。「もちろんっスよ!」と笑顔で親指を立てるルークの後ろで、ディノはやっぱり静かにうなずく。

 カレンもプルメリアも「賛成!」と微笑んでくれた。


「ではお言葉に甘えて……」


 そう言いながら私は改めてダグラスと向き合った。彼の名前を呼ぼうとした瞬間――ダグ! とうれしそうな自分の声が耳奥で響いた。

 それはあまりにも遠く儚い、夢のような音色だった。

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