18 創造魔法の才①

 ディノだけ立ったままでは落ち着かないだろうと席を詰めて、空いたところに誘ってみる。他のソファをぐるりと見回した若葉の目は、プルメリアとカレンの中に入るよりはましと思ったのか、黙って私の横に腰を下ろした。


「うん。実は僕からもうひとつ提案があるんだけど、その前に」


 ロンはそこでいったん言葉を切り、体ごと私に向き直った。


「きみの名前を決めないかい?」

「私の名前……」

「病院の入退院やここの入居手続きなんかで名前が必要なんだ。それにこれからルームメイトと仲よくなるためにも名前がなくちゃね」


 ロンが見やった視線の先を辿ると、プルメリアが何度も強くうなずいていた。ダグラスもカレンもルークも期待した目をしている。


「きみの希望する名前でいいんだけど、なにか思いつくかい?」


 やさしいロンの声に問いかけられて、今一度自分の名前を思い出してみようとしたが、できなかった。かと言って思いつく言葉もなかった。

 私には好きな食べ物も好きな色も好きな花の名前もない。


「……一般的な女性の名前ってなんですか?」


 ロンの眉が寂しげにひそめられた。


「ジェーンだね」

「ではジェーンでお願いします」

「本当にそれでいいのかい……?」

「はい。今の私に、名前に意味や理由を持たせることは難しいです」


 薄く開いたロンの唇からなにか言葉が出てくることはなかった。代わりに老紳士は私の肩を労るようになで、やわらかな目尻を垂らした笑顔でうなずいてくれた。


「ではジェーンくん。ここにきみのサインが欲しいんだ」

「え?」


 にわかにピンと背筋を伸ばしたロンは、ジャケットの内ポケットから茶封筒を取り出した。中には一枚の紙が入っていて、三つ折りにされたそれを勢いよく開けてみせる。

 眼前に突きつけられた紙がなんであるかは、上部に太字で堂々と印刷されていた。


「クリエイション・マジック・ガーデン仮雇用契約書……」

「素敵!」


 まっ先にプルメリアが歓声を上げる。


「ロン園長、つまり彼女を――ジェーンを整備士として雇うんですね!?」

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