17 シェアハウスの5人⑤
私はお辞儀をしながらあいさつを返したものの、もどかしかった。名前どころか年齢も、好きな食べ物も、ルームメイトに伝えられる自分の情報がなにもない。
こんな状態でみんなと仲よくなれるのかな。
私が感じる不安にみんなの戸惑いが混ざり、あたりに漂いはじめた時、リビングの扉が開いた。ロンが黒髪の男性といっしょに戻ってくる。
「自己紹介はひと通り終わったかい?」
ロンはみんなの顔を見回しながら私の隣に座った。老紳士のまとう清浄でやわらかい空気は、私だけでなく部屋全体を心地よく満たす。
ダグラスがうなずくとロンは満足げな笑みを浮かべ、黒髪の男性を見上げた。彼は私の横のひじかけに寄りかかり立っていた。
「じゃあディノくん、きみが最後だよ。ごあいさつして」
「……ディノだ」
柱時計の振り子が沈黙を刻んだ。
「いや終わりかーい!」
「もうちょっとあるっスよね!? 年齢! 所属!」
ダグラスとルークのツッコミが静寂を破る。
私はふたりきりの時には見なかったダグラスのノリのよさに驚いた。けれど振り返ってみれば、学校の教室では男友だちとふざけ合うのが好きな彼だった。
ディノは褐色の顔をしかめた。若葉色の細めた目が明らかにめんどうです、と訴えている。
「二十五歳。園芸部所属。これでいいか」
「あとカラオケの
「カラオケ行かねえよ」
のほほんとしたロンの提案をディノはばっさり切り捨てた。とても上司に取る態度とは思えない。あまりの遠慮のなさに私は目をまるめ、ディノとロンを交互に見やる。
するとロンは合点がいった顔でディノに手のひらを差し向けた。
「ディノくんはね、僕の息子なんだ」
確かにディノとロンは肌の色がそろいの褐色だ。目も同じ緑系統。そしてディノは背がすらりと高い。一八〇センチはありそうだ。そんなディノに負けず劣らず、ロンもなかなかに高身長だった。
「ちょっと無愛想だけど根はいい子なんだよ。ディノくんと仲よくしてあげてね」
「はい。よろしくお願いします、ディノさん」
ディノは長く伸ばした横髪越しに私をちらりと見て、「ああ」と返事してくれた。
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