04 見知らぬ場所①

 思い出そうとするが頭が痛んだ。なんだか恐ろしくなってきて、根っこの元から這い出る。靴ははいていなかった。服はパジャマのように簡素な白いワンピースだけだ。

 鼻腔をひりつかせる乾いた空気が風に運ばれてきて、二の腕を抱き締める。寒い。今は冬らしい。すぐ横の木道を行く人々は、厚手のコートや手袋でしっかりと防寒している。

 なんで私は、夏のような格好なの?

 ふと、老婦人と目が合った。老婦人は目をまるめて私を凝視し、隣にいる犬連れの夫らしき男性の肩を叩いて呼ぶ。私は男性が振り返る前に歩き出した。

 ここに留まってはいられない焦燥と緊張に突き動かされただけで、あてなんかない。

 木道は人が多く、私は場違いな格好が恥ずかしくて並木に隠れるように芝生の上を歩いた。それでも横からぽつぽつと視線を感じる。枯れ葉を転がす風のようなざわめきが私を追いかけてくる。

 次第に息苦しくなってきて、道とは反対に広がる木立の中に飛び込んだ。しばらく落ち葉を蹴立てながら奥へ進めば、ざわめきは遠のく。


「お母さん、また行き止まりだよお」

「あら。じゃあさっきの曲がり角を左だったのね」

「いや、その切り株を見てごらん。ジュリー女王のマークがあるよ」


 親子と思われる会話が流れてきた。父親の声につづいて、少女の大きな歓声が上がる。私は思わず肩が震え、木立の間をにらみながらあとずさった。

 姿は見えないが三人の親子だけではない。林の中にも大勢の人々がいて、風の吹くままに気配が現れては消える。

 私はとにかく人気ひとけのないほうへと急いだ。ひとりになって落ち着きたかった。できれば体温をどんどん奪っていく冷たい土と風から避けられる場所を求めて、目を動かす。


――ここは魔法の庭


 そこへ木々を縫い男性の声が届いた。それは歌声だった。気づけば私の周りをベースの重厚なリズムが囲んでいる。疾走感あふれる旋律は、私の戸惑う足音や逸る息遣いを掻き消した。

 林へ逃れても振りきれなかった人々の気配が、ぴたりとやんでいた。

 私は少し大胆に動けるようになり、歌声へ近づいてみた。木立の隙間から広い芝の原っぱが見えてきて、そこにたくさんの人が集まっている。

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