05 見知らぬ場所②

 みんな一様になにかを見ている。中には手を振ったりカメラで写真を撮ったりしている人もいる。私は木の根元にしゃがみ込み、幹の影からそっと覗いてみた。

 原っぱの縁にさっき逸れた道が伸びていた。ここは赤っぽいレンガを組んだ石畳みの道になっている。そこに大勢の視線を集めるものが浮かんでいた。

 船だ。船首から船尾まで白く染まった船が、純白の帆を翼のように広げている。それは雲の海原に乗り、レンガ道から三メートルほどの宙に浮遊している。

 目の覚めるようなアクアブルーのロープを巻きつけ、優美にはためく旗の下に集まった乗組員たちは、観衆に向けて踊っている。海軍を彷彿ほうふつとさせる白い制服に身を包み、長銃を片手に彼らがくるくると回れば、長いコートの裾もいっしょに舞い上がる。

 そんな彼らの一糸乱れぬダンスに、鳥の着ぐるみがちょっかいをかけようとしていた。しかしすんでのところで狼の着ぐるみに止められ、すねている。


「あれは、なんの騒ぎなの。あそこに乗ってる人たちは……」


 私の目は船室の上部、舵輪のそばに佇むひと際豪奢ごうしゃな衣服をまとうふたりに奪われた。

 ひとりは女性で、艶やかな長い緑の髪を腰まで流している。ピンクを基調としたドレスの裾は花のように広がり、肩と足元はふんだんなフリルで彩られている。彼女の身動きに合わせ、腰布が可憐に揺れていた。


「ジュリー女王?」


 親子の会話を思い出し、つぶやく。明らかに他とは一線を画する身なり、佇まいに私の中で確信が生まれる。それは彼女に寄り添う男性の出で立ちを見てますます固まった。

 嵐が過ぎ去ったあとの空を切り取って縫い上げたかのように、深い青に染まるマントをひるがえして、男性は舵輪を掴む。上下そろいの白い礼装には金のラインが入っている。その他の装飾は肩の三連飾りひもくらいだが、飾り気の少なさが生地の純白を引き立て、洗練された美しさを輝き放っていた。

 歩み寄るジュリー女王の手を取り、そばへ導く所作は厳かでありながら、ダンスのように優雅だ。


「婚約者の王子、かな」

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