03 赤い証にキスを②
「好きです。ダグだけの、けして消えることのない証です。ダグは、キスされるのいつも嫌がりますね」
唇を寄せたまま私はダグラスを見上げた。落ち着きのないオレンジの目が宙をさ迷っている。
「だって……。こういうのって普通、男がしない?」
「そんなことはございませんよ。私の王陛下」
私はまじめな顔を作って、君主に忠誠を誓う騎士のようにひざまずいてみせた。最初は目をまるめて驚いたダグラスも、私のいたずら心に気づいてムッと顔をしかめる。
すると掴んでいた手を握り返され、強く引き寄せられたかと思えば首筋をダグラスの指がトンッと叩いた。
「きみの証はここについてるけどね。俺のものだって赤い印。こっちは消えちゃうのが残念だ」
爪先で昨夜の痕をなぞられて、薄い布一枚だけをまとった身がとたんに心細く感じる。けれども芯はちっとも寒くない。ダグラスから注がれる眼差しに火をつけられる。
何度でも。
「でしたら、またつけてください。消えないように」
ゆっくりと上かけを肩からずらしていく私に、ダグラスののどが鳴った。その時になって朝日の中、自分がしていることのはしたなさに気づいた。でも、口にした言葉にウソ偽りはない。
彼が求めてくれるのなら、いつだって応えたかった。
「だけど……ココアが冷めるよ」
私の腰を引き寄せておきながら、ダグラスはナイトテーブルに置いたマグカップに目移りする。私は未練もなく上かけから手を離し、かかとを上げて彼の唇にキスを贈った。
「そんな逃げ道はいりません……」
熱い吐息で私の名前を呼んだダグラスの唇に噛みつかれた直後、朝日に光り輝く世界はぐるりと回った。
ドッと衝撃を感じて私は目を見開いた。どこかから落ちたと思ったが、痛みはない。体は黄土色の芝生に横たわっている。
「わたし……?」
厚い雲に覆われた空を見上げ、どうしてこんなところで倒れているのか考えた。後ろは壁のように高く白い木肌だ。先を辿ってみると大きくうねっていて根っこだとわかる。
たくさんの足音と話し声、それに食器の触れ合う音がする。
「ここは……。私なにしてたんだっけ……?」
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