8 愛に勝る、魔法はなし?

 彼には少し、時間が必要だと思う。

 考える時間。

 あとは、テオレム王国以外を見る時間。


 仮に呪いが解けたとした場合の身の振り方と、そうでない場合と。

 答えはでないと思うけど、ちょっとでも持っておく情報は多い方がいい。


「よっ、と」


 一夜明け、洗濯物を洗う。

 あー、この問題あったな。

 一緒には洗いたくありません! ってやつ?

 まぁ、水は用意しとくし自分でやってもらおうか。

 一緒に落ちてたあの鞄に着替え入ってる……よね?


 手の平を上に、まるで水をすくう様な形に合わせ、集中する。

 ──そうすれば、手の中には水が現れる。


「はー便利ねぇ」


 わたしは地属性の魔法が得意。

 土や岩、草花、木々に関する魔法。


 魔法使いには適性があれど、このくらいの……具体的には自分の手元をそう離れない程度の魔法。

 調理用に火を起こしたり、風で髪を乾かしたり。

 生活する中で、いい感じにつかえる魔法は属性に関係なくつかえる。


 でも、手元を離れると途端に威力は大幅ダウン! ……なので、得意な魔法の属性把握は大事。

 わたしだって調理をするときも、火種は魔法で起こせるけど、ちゃんと薪を使って火を持続させる。


 そんで、そのなかでも……。

 大昔から継承される、大魔女の魔力。属性魔法。

 それは、唯一無二にすごいのだ。


「呪いの影響もあるし、魔法つかわせない方がいいよね?」


 ダオは、その身体的な特徴から恐らく水の魔法が得意だ。

 一番強くもつ属性は髪、その次に瞳にでるらしい。


 そういうの、ちょっとファンタジーなゲームっぽい。

 まぁわたしは髪も茶色系、瞳も茶色か黄色か微妙なライン。

 うん、地属性に全振りだねっ。


 ちっ。おしいな。庭の水やりが楽になりそうだったのに……。

 とは断じて思ってない。

 断じて、……思ってないぞ。


「こういうところがなぁ、昔の偉い人? の妬みの対象だったのかなぁ」


 魔力をもたない者たちが、ふつうに魔法使いたちと助け合って生きていたとしたら。

 よほど、今より生活は便利だったと思う。


 いや、分かるよ? 便利なことには、多少なり代償を伴うってね。

 でも、この程度なら寝れば戻るくらいの魔力だし……。

 そんな、金とるほどのことでもないし……。


 なんで、魔力をもつ人は減ったんだろう。

 なんで、魔物は衰退したんだろう。

 なんで、魔法使いは人々の定める『ふつう』じゃないんだろう。


 なんで、なんで? 


 いくら前世の記憶をもってしても、疑問ばっかりだ。


「──ハニティ」

「あ、ダオ。おはよう。よく寝れた?」

「おかげ様でな、ぐっすりだ」


 やはり昨日は相当お疲れだったらしい。

 笑っていても、どこか影を感じていたが、……今日はずいぶんと晴れやかだ。

 ……うん、いいね。


「それにしても、すごいな?」

「え?」

「食事……なのか、この土地なのか。魔力が相当、戻った気がするぞ」

「……そんなに?」


 あっれー、おっかしいなぁ。

 いくらわたしの育てたものが魔法使いによく効くからって……。

 昨日は特に、体に負担にならないようにって、少なめにしなかったっけ?


 土地か? 土地効果か?

 ちょっと、あんたたち。

 美形だからって……サービスしてんじゃぁ、ないでしょうね?


 ちらっと足元のペパーミントをみれば、気のせいだろうが焦っているような気がした。

 嘘だよ、冗談だよ。

 今日も元気でなによりだよ。


「うーん。食べたものって話なら、他の魔法使いにあげたことあるし……」


 まぁ、体調がわるかった訳じゃないから効果は分かんないけど。

 みんな呪いみたいな魔力の減り方しないだろうし。

 うん……?

 待てよ、食べ物……食べる……吸収……。


「あ」


 もしかして、……呪いだから!?

 

 呪術ってのは、なんらかの方法で相手に自分の魔力を送り込むんだよね?

 で、わたしは料理って方法でわたしの魔力で育った食べ物をダオに吸収させた……。


 つまり?

 ダオの血なのか遺伝子レベルなのか分かんないけど、呪いをかけた魔女の魔力とわたしの魔力。

 その勝負の行方が──。


「アイム、ウィナー?」

「?」


 あっちの魔女より、わたしのが強いって話?

 いや、確かに言われてみれば……。


 炎も風も、体内に一旦吸収させるって意味での魔力の送り込み方はできないよな……。

 出来るとしたら、水とか食べ物とか、……血とか?


 呪術って言うからには、髪の毛とか食べそう……うえ。

 わたしたちの魔法は自然に寄せてるから、呪術って特殊な魔法なんだろうなぁ。


「根本的な解決には……なってないんだ」

「ああ。……だが、今まで減る一方だった魔力が、減る以上に戻った……。初めてだ」

「そ、っかぁ」


 どうしよう。

 わたしでも誰かの役に立てるって、魔物の討伐以外でひさびさに実感した気がする。

 いや、植物をね、育てて一応人の役には立ってるんだけど。

 それを自分の手で料理にして、しかも他人に効果がってなると……。

 嬉しい? 嬉しいのか、わたし。


 だって、薬草やハーブは専門の薬師に回してたし。

 なかなか実感が……。わかない……。……。

 ……ってそうだよ薬! くすり!


「ダオって、滞在先で水薬とか試してないの?」

「試したさ」

「……ですよねぇ?」


 じゃぁ、やっぱりこの土地?

 いや、むしろ……全部?


「わっかんないねぇ」

「ハニティに分からないなら、俺にもさっぱりだ」


 まさか……、隠し味に愛情いれました!


 ……って話じゃないでしょうね? 


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