9 大地の恵み

 我ながら、良くできていると思う。


「今度はなにしてるんだ?」


 呪いはあるけど、パワハラに悩まされた職場を辞めて、色んなことに興味がでてきた『ミスター何それ』ことダオレン。

 ……涙がでそうだよ。


「昨日のレモンバーベナをまた乾燥させてるの」

「ふうん? また、飲むのか?」

「ううん、お菓子に入れようかなって」

「ああ、なるほどな」


 余すところなく味わえ、とは良く言ったものだ。

 大地の恵み、いただきます。

 いや、ふつうは飲む前のを使うんだろうけど。

 貧乏性なのかしら。


 きっと、前世のままだったら、ここまで意識してないよな。

 生まれ変わって良かったのかは……まだ分からないけど。

 少なくとも、ハニティとして生まれ変われたのは、良いことだと思う。

 忘れかけていた命への感謝、思い出せたから。


「なにが良いかな~」


 たまには本でもみて料理の知識をアップデートするか。

 気のせいかもだけど、お菓子になるとやる気度がちがう。


「乾燥、手伝おうか?」

「あ、魔法使おうとしたでしょ、ダメで~す」


 はい、魔法警察です。

 弱ってる人は大人しくしていなさい。

 あれか、瞳の色からして水の次に風の魔法が得意なんだな、きっと。


「世話になりっぱなしというのも……」

「いいからいいから」


 無理をしたら治るものも治らない、ってね。


「それより、食べ物で苦手なものってある?」

「いや。食べられるなら何でも食べる」

「……ですよねぇ」


 元騎士、軍人さんだもの。

 限られた食料で行軍したことも、きっとあるはず。

 何でも食べてきたならよっぽど奇抜なものじゃない限り、アレルギーの心配もなさそうだね。


 ……というか北の地域って、そんなに人同士の争いが身近にあるんだな。


「んー。ハーブが合うやつ。……クッキー?」

「焼き菓子か。好きだぞ」

「なら良かった。……まずはオーソドックスなのにしよう」


 スッキリしたやつでも合うかな?

 一回抽出したし、多少合わなかったとしても問題ないよね。

 むしろ風味不足?


「まぁ、どうせまだ乾かないし。今度にするか」

「もしすり潰すつもりなら、その時は手伝うぞ」

「あー確かに。じゃぁ、それはお願いしようかな?」

「よしっ」


 なんか、気合い入ってるな。


「よしっ、て。笑わせないでよ、もう」


 むきになってるのが面白くて笑ったら、ちょっと驚いた顔をされた。


 なんで?





「さて」


 解呪はともかく、呪いをかけた魔女より、わたしの方が強いことは分かった。

 ……たぶん。

 いや……、たまたま地属性のわたしのスタイルがかみ合っただけかもしれないけど。


 入れ過ぎず、けど昨日よりはもう少しわたしが育てたものを料理に取り入れてみようかな。

 前世の記憶から、薬膳カレーに薬膳鍋あたりは容易に想像できる。

 その中でも──。


「薬膳コース……ってか?」


 わたしも自分で自分の育てたものを食べてはいたけども。

 前世の記憶がなかったから、料理のアレンジとか、向こうだけに伝わってる効能とか。

 香りのもたらす効果とか。

 幅広い知識は、なかったからなぁ。

 やっぱり、情報が多いと選択肢も広がる。


 だいたい、『薬膳』って言葉は、前世で言うところのここ百年、二百年ぐらいで出来た言葉だと思う。

 栄養とか、体の仕組みとか。

 時代が進むにつれ、医学も進歩してきた。


 ハニティとしての記憶だと、効能に対する知識はもっとアバウト。

 風邪に効く、ってよりは体がだるい時に効くって感じだし。


 ……ともかく、せっかくあるものは使わねば。

 前世の記憶も組み合わせて……料理、作ってみよう。


「挑戦してみますか。……まずは、えーっと。汁もの?」


 コース料理って、もしかしてメインから決める?

 まぁ、いいや。

 なんたって異世界だし。

 料理人の皆さん、テキトウでごめんなさいね。


「この庭……、というか、森というか。色んなものが育ってるんだな」

「そっ。わたしの魔力のおかげで色々無視してんのよね」


 育つ環境とか、季節とか。

 わりと日本に近い気候をもつこの地で、本来なら同時期に育たない作物が一緒にキャッキャうふふしてたりする。

 ……もしやこれって、植物系チートってやつ?

 いや、大地も多少扱えるから、地属性チート?


 なんだか異世界転生っぽい話だけど、他の地の魔女たちはどうなんだろうね~。

 ひとり万歳だから、交流があんまりない。

 ときおり接点がある子も、わたしとは方向性が違う修行だからな。

 ……あれ、なんか忘れてる気が……。


 師匠に関しては、そもそも比べたらいけないくらい力が違い過ぎるからあれだし。


「薬草、ハーブに野菜、……なんなら樹。土や岩にはもちろん、大地に根をはる植物になら魔力が送れるからね」

 

 カモミールにペパーミント。大根ちゃんに、トマト。

 ハイビスカスにニンニク。アンズにほうれん草。


 なんで一緒にいるんだい? とでも言える植物も、敷地内に存在している。


「なるほどな……。俺の知る地の魔法使いは、大地を隆起させ、空から岩を落とす。……そういう、存在だったな」

「ま、まぁ。そういう使い方もあるにはあるけど」

「魔力を持つ者が他者の役に立てるなんて、刃になる以外方法がなかったからな」

「……そっか」

「あ、悪い」

「ううん、もっと教えてよ。ダオのこと」


 空気がわるくなると、気まずいのはこっちでも一緒。

 でもさ、相手を理解するためには、時に酷な話を聞くことも必要。

 

 今は、それが必要なフェーズだと思うんだ。


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