7 ここらで一杯、ハーブティー②

「おお、色付いてるんだな」

「面白いよね」


 失言三秒前だったわたしは何とか言葉を引っ込めて、適切な言い方を考えた。

 ……その間に、抽出するのに丁度いい時間になってしまって結局思いつかない。

 こう……、傷付けず、それでいて確信めいた言い方……くっ。

 でてこない。


 茶こしをつかって、茶葉が入らないようカップに注ぐ。

 ハーブはけっこう小さいのもあるからね。

 網目はなるべく細かいのに限る。


 カップにうまく注げば、うっすら茶色く色付いた飲み物が。

 うん、いいね。


 ベルベーヌ、ベルベイヌとも呼ばれるレモンバーベナは、さわやかなレモンっぽい香りがお気に入り。

 この香りが鼻から通って、消化機能も高めつつ、気持ちを落ち着かせてくれるそうな。


「はい、どうぞ」

「……いい香りだな」

「でしょ? 先に、香りを堪能してね」


 香草だもの、まずは香りを楽しんでから味わうのがおすすめだ。


「なんか……こう、……気分が落ち着くな」

「うんうん」


 いわゆるアロマテラピーってことなんだろうな。

 わたしも香りを楽しんでると、心が穏やかになる。


 ただ、味は人によって好みの問題があるから。

 果実や紅茶と合わせたりして、調整してあげれるけど。

 わりとスッキリとした、そんなに癖のないチョイスをしたし、大丈夫……とは思う。


「……仮に」

「うん?」


 互いにカップに息を吹きかけ、ハーブティーを冷ましながら目線だけを動かす。


「グランローズ様に呪いを解いてもらえたとして」

「うん」

「俺は、どうすればいいんだろうな」

「……!」


 そうか。

 彼は、……いや。

 彼にも、分からないんだ。

 

 彼のいた国では、力だけが彼を生かす理由だった。

 だから、魔力を取り戻せるなら、それがもちろん最優先だ。


 でも、今は違う。

 魔力がなくても、命を助ける。

 そんな魔女もいるような環境で、力を取り戻したとして、……じゃあどうするのか。


 わたしみたいに大魔女の側で生活していたら、正直めんどうとは思いつつ、魔力がない者をも守ることこそ魔女の使命って教わってきたから。

 そのための行動をする。


 彼は、その根底がない。

 魔力を取り戻したからといって、人のために闘う。

 そんな義務は……、きっとない。


(自由に旅をしたらどうか……、とも言いづらい)


 いくらマシとはいえ、魔法使いへの偏見は少なからずある。し、人々が対等に接する可能性があるのは、女性……魔女だ。


「うーん……。ダオは、やりたいこととか無いの?」

「俺? そうだな……。ずっと戦いに身を置いていたし……。これと言って思いつかないな」

「じゃあ、それを生かして魔物討伐専門業者とか?」

「それは考えたが……。……本当に、呪いは解けるだろうか?」

「──っ」


 正直、なんとも言えない。

 いかにグランローズ様とはいえ、土や植物を介さずに成長を促すことはできないし、あくまで自分の治癒能力を高めるだけだ。

 つまり、元々のダオの資質が問われる。

 体の機能はともかく、魔力……呪いに打ち勝つ、力、意志、想いの強さ……それらがあるのか。 


「じゃあさ」

「うん?」

「仮に、……仮にだよ? 呪いが解けないってなったら……、どうする?」

「そうだなぁ……」


 酷、だったかな。

 そんなことを聞いてしまうのは。


「魔力だけならまだしも、生気……生きる気力を失い続ければどうなるかは分かる。……そうはならないよう、グランローズ様の元で……一生を過ごすしかないんだろうか」

「一生……」


 たしかに、そうなるか……。

 定期的に戻ればよさそうな気もするけど、呪いの進行具合がどんなもんかなんて……専門家じゃないし分からない。突然、呪いが一気に加速するかもしれない。


 専門家ねぇ……。 


「シークイン様は、けっこう北の方に居るんだっけ?」

「そうだな」

「じゃぁ、聞くのは無理そうかぁ」


 専門家……かは分からないけど、シークイン様は『すべてが視える』らしい。

 意味はよく分からない。

 蒼水の魔女、……水の大魔女の力を受け継ぐ方たちは、皆そうらしい。

 それでいて、多くを語らない。

 それとも……、語ってはいけない?


 魔女最大の謎といっても過言ではない。


「とりあえずさ」


 一応、プレ大魔女のわたしだ。

 同胞が困っていれば、それを助けるのも我が使命なり。


「グランローズ様もあの地へお戻りでないかもしれないし、体力が戻るまで……ここにいたら?」


 今できる、わたしの最大限の努力。


「っ、いいのか? ……でも──」


 いや、分かるよ。

 年頃の男女がひとつ屋根の下……って、良くないよね?

 うんうん、わたしがお父さんなら許しません。

 あ、ハニティとしての家族は居ないんですけどね。

 まぁ、それはいいとして。


「部屋、余ってるし。それにもし、ダオがやばい人でも、……敷地内なら負けないよ」

「へぇ? 俺、一応剣も得意だけど」

「忘れたの? ここの大地にはわたしの魔力が満ちてる……。あなた、孤軍奮闘も良いところよ?」

「あー、……つまり俺は、少しでもハニティに危害を加えたら……終わると?」

「そういうこと」


 ダオの「いやそうなんだけど……、そういうことじゃない」って言葉がいまいち理解できないのは……なんでだ?

 あれか、乙女の恥じらいをもてー! ってことか?


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