6 ここらで一杯、ハーブティー①

「何してるんだ?」

「ん? お茶、入れようかなって」


 ヘビーな話を聞いて、同じ魔法使いでももっと大変な人がいるんだなって……正直びっくりした。

 椅子に座ってはいたけど、心は正座をして話を聞いていた。


(──あ、そっか)


 魔法、そんな風に使うんだって。

 どんな風だよ、って思ったけど。


 戦の駒として見られてきた彼にとって、魔法の使い方は極端だったはず。

 今はほとんど現役時代の力はないみたいだけど、それでも分かる。


 その地位を必死で掴むため。

 逆境を覆すため。

 必死で己の力を磨いて、そして──呪術というさらに大きな力によって奪われた。


 彼にとって、魔法とは力の象徴。


 わたしの『家庭菜園』だの『薬草園』だのみたいに、のほほんとした使い方。

 ……そもそも、知らなかったんだろうな。


「ていうか、ダオって……あれよね」

「ん?」


 棚から気分転換のため、リラックス効果のあるハーブ、レモンバーベナを取り出す。

 たしか食後のハーブティーとして親しまれてる。

 

「ダオも魔法使いだけど、魔女に対するイメージって──」


 魔力がない人たちと変わらないね。……と言い掛けて、やめた。

 そうだ、この人、王の愛人に呪術かけられてんじゃん。


 大魔女が同胞を守るために、築いてきたこれまでのイメージ戦略。

 妖艶で、大胆不敵で、不遜で、高慢で、謎めいている。

 だから近づくなと。

 そうすることで、魔力のない人々へ牽制し余計な衝突をさける。


 実際のところ、同胞からすれば先人たちがわざとそう振る舞っているのは分かる。

 知り合いはふつうに良い人ばかりだもん。


 けど……、ダオの居た国では、そもそも大魔女も干渉できないし。

 環境最悪だったんじゃんね。

 これは失言。いや、失敬。


「ああ、言いたいことは分かるよ。俺も、同胞の拠点を行き来して、他の国の事情……少しは分かった」

「ええと、ごめん。……今まで、そんな魔法使い見たことなくて……」

「いや、あの魔女だって国で生きるのに必死だったんだろうし。全員がそうではないってのは、分かってるつもりだ。……ハニティを見ていれば分かるよ」

「そ、そう?」


 弱ってて生い立ちが大変な人に気を遣われてしまった……。

 くっ、不覚。

 一応、慈愛も司る魔女なんでね。

 これは、地の大魔女への道としては失点だ。


 という訳で、挽回の意も込めて、ここらで一杯。

 食後のハーブティーといきましょうか。


「これは、なにしてるんだ?」


 人懐っこい……というよりは、多分、抑圧された環境から出てきて色々なことに興味深々なんだろう。

 あれこれ聞いてくるダオは、見た目に反してかわい…………いや。これは、母性ではない。

 ぜったいに、だ。


「お湯を入れて、ポット自体を温めてるの」

「へぇ」

「で、一回出して」


 貧乏性のわたしは本当ならこのお湯でいつも飲むんだけど……。

 ええい、今日は無礼講じゃ。

 丁寧な淹れ方でしてやる!


「ティースプーンでこの子を入れて」


 れーもーんーばーべーなーぁ。

 ……。

 二人分……で、コップちょっと大きめだし、山盛りで三から四杯かな。

 いつもは一人分だから、テキトウに入れて調整するけど……他人の分までってなると緊張するな!


「……もう一回お湯を入れて、ちょっと待つ」


 二、三分でいいかな?

 あ、でも量もあるし四分くらいかな。


 待つ間、なんか聞いてみよう。

 うーん。

 なるべく、ヘビーじゃない話……。


「ダオって」

「うん?」


 今後、どう生きていきたいの?


(あぶなーーい!)


 また失言するところだった。

 違う、そうなんだけど! そうじゃない!

 ニュアンス、むずかしい!


(呪いはそりゃ、解きたいよね。そのために永遠の樹を目指してて……)


 でも、この世で治癒魔法への希望があるとすれば、調和と命のめぐりを司る……水の大魔女、シークイン様だ。

 そして、彼女はダオをこの地方へ行くよう伝えた。


(解呪はできない……、けど。グランローズ様の育てた作物なら、あるいは……?)


 失う魔力以上に、摂取する魔力が多ければいい……とか?

 なんか、生気も失うとか言ってたから、解呪できない以上その方がいいって話?


 うーん。分からん。

 シークイン様は大魔女のなかでも、特に謎多き美女だからなぁ。

 なにが見えてるんだってくらい鋭いけど、独特な言い回しをされるし。

 そもそも、口数の少なさもトップクラス。

 イメージ戦略は、『静』って感じ。

 ハツラツとした炎の大魔女メイラフラン様と、対照的だ。


 でも。

 わたしの魂。

 わたしすら、気付いてなかった、もう一つの記憶。

 それに気付いたのは唯一、彼女だ。


 だから、彼女の言うことで無意味なことはない。


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