4 謎の騎士、拾いました④

「これは……」

「どう? まぁ、……体の負担を考えて量は少ないんだけど」

「いや、美味しそうだ」


 物珍しそうに魔女の家を徘徊していた彼を食事用テーブルに促し、席に着かせた。

 いくらわたしのテリトリーとはいえ、さすがに目の届く位置に居させた方がよかったか……?


 ふむ。しかしながら、だ。

 前世も合わせるとけっこう一人暮らし歴も長いから、他人に「美味しそう」といわれると、……照れるな。

 味は好みもあるからともかく、効能は保証できるでしょう。

 なんたって、で採れたんだからね。


「いただきます」

「?」


 両手を合わせて、大地の恵みに再度感謝。

 すると、不思議そうな顔でダオにみられた。


「わたしたちは、他の生物のおかげで生きていけるのよ。感謝よ、感謝」

「……なるほど」


 言いたいことが分かったらしいダオは、わたしの真似をして「いただきます」という。

 素直なのはいいことだ。

 ちょっとかわい……母性?


「……! 美味しい……、それに……?」

「元気でるでしょ」

「ああ、不思議な感覚だな」


 ゴボウのあとにさっと作った、クコの実の乗ったおかゆを食べたダオはなんだか顔が明るくなった気がする。


「クコの実も、ゴボウも、うちの庭で採れたのよ」

「へぇ。……魔女であることと、なにか関係が?」

「察しがいいのね。わたしは、地属性が得意な魔女だから。大地に魔力を送ることで実りが豊かになったり、……まぁ、色々」

「! 魔法を……、そんな風に」


 ……どんな風に?

 むしろ、地属性の魔法って言ったら、それ以外思いつかないんだけど。

 あれか?

 騎士っぽいし軍人? だから、要塞を土の魔法で築いたり、魔物を岩の弾丸で射抜いたり……ってか?


 ……たまーに、似たようなことはやるけども。ええ。


「もちろん魔力がない人にも体に良いけど……、魔法使いには特に効くわよ?」


 そう。

 ただでさえ体に良いものの生える土壌に、慈愛と成長を司る地の魔法を駆使すれば。

 そこで育ったものは、魔力と共生する魔法使いにとっても効く。

 自己治癒能力アップに、免疫力アップ。

 おまけに、どことなく感じられる懐かしさと優しさ……。

 …………母性?


 まぁ効果のほどは自分が発信源ではなくて、世話になっている人から太鼓判押してもらったんだけども。

 理論上は、まちがいないのは知ってる。


「だからか。妙に力が湧いてくる」

「あ、やっぱり魔法使いなんだ」

「……そのつもりで助けたんだろ?」

「ん? まぁ、そうだけど。そうじゃなくても、放っておかないでしょ」

「……そうなのか?」

「え? そうでしょ」


 ダメだ。話がかみ合わない。

 というか、世間様の抱いている魔女へのイメージからしたら……仕方ない?

 傲慢。わがまま。妖艶。……あとなんだろ。

 とにかく、自分勝手みたいに思われてるんだろうなぁ。


 でもご本人も魔法使いだし、……女性が少ない地域でしたか?


「へぇ、そういうもんなんだな」

「伝え聞くことと、実際目にするものって違うことあるから」

「──違いないな」


 よほどお腹が空いていたのか、お気に召したのか。

 木のスプーンで次々に口元へとおかゆを運ぶ姿は、見ていて気持ちが良い。

 味付けはシンプルだけど、体に良いって……こういうことかしら?

 けど、やっぱりゆっくり食べた方がいいよね?

 咀嚼、大事!


「ちょっと、慌てて食べなくても、獲らないからっ」

「ハニティは俺の母親か?」

「わたしはまだ十八ですけど!」


 いや、前世の分合わせたらなんとも言えないけどね!


「十八歳だったか。しっかりしてるんだな」

「そういうダオは、何歳なのよ」

「俺? 俺は、二十四」

「へー」


 近所のお兄さん、みたいな感覚だな。

 ……というか、そんな綺麗な顔でこっち見んな。

 ほんと、黙ってると冗談言うタイプに見えないんだけど。

 意外とお茶目さんなのか。


「わたしも食べよ」


 量は彼より更に少なめに入れたけど、自分用にも用意した。

 うん! やっぱり美味しい。

 おかゆの、このとろみと塩味がたまんないのよね。

 そこに甘さとほろ苦さを持つクコの実。

 いいね~。


「ん、シャキシャキ」


 ゴボウはといえば、しっかり歯ごたえ。

 甘めのきんぴらごぼう、って感じだ。

 噛めば噛むほどしょうゆとみりんの味付けが染みでてきて、それが後に和えられた表面のはちみつとマリアージュ。

 だれにとは言わない、ありがとう。天を仰ぐ。


 うーん、いいね。


 ついでに振ったごまと、ごま油で……抗酸化作用、だった?

 美容雑誌でも取り上げられてたし、栄養価も高いしでバッチリ。


「……ていうか、魔女だからか知らないけど。俺のこと、信用し過ぎじゃないか?」

「へ?」


 い、……言われてみれば?

 なんか不思議とダオ馴染んでるし。

 いや、魔法使いなら保護しないとだし……うーん。


「ま、まぁ先にごはんって言ったのわたしだし……後で詳しく聞けば良いかなって」

「それはそうなんだけど、もっと、こう……警戒心というか……」

「あ、わたし一応だけど次期、恵土けいどの魔女候補なんで。わりと強いし」

「いや、そうじゃなくて……」

「?」

「あー。いや、俺がわるかった」


 何だと言うんだ、いったい。


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