3 謎の騎士、拾いました③

「……? ここ、は……?」

「あ、目覚めた?」


 へぇ。綺麗なみどりの瞳。

 思った通り、綺麗な顔立ちと相まって、芸術品のようだ。

 切れ長の涼しげな目は、冷たい印象を与えそうではあるけど……。

 その綺麗な翠に先に吸い込まれて、そんなことなど考える余裕もなさそうだ。


 周囲を見渡すため上半身を起こした彼は、けっこう体格ががっしりしてる。

 さすが騎士。……たぶん。

 

「……貴女は?」


 どこか探るような顔を向けられる。

 め、めちゃめちゃ警戒するじゃん……。

 もしかして、ひどい目に遭ってきたとか?

 や、優しくしてあげないとかしら。


「……ハニティ。一応、魔女よ」


 一応ってなんだと思ったけど、まぁ魔力持ってたら魔女って言ってあげた方が警戒されないかなって。


「魔女? ……」

「?」

「それにしては──、…………いや」


 それにしては、──地味。って言いたいのかな!?

 わるかったね! 絶世の美女じゃなくて。

 ケンカ売ってるのかな?

 あーあ、助けたのにな~。

 ……いかんいかん、優しく。優しく。


「んんっ。ところで、あなたは?」

「……俺はダオ、ダオレン。……ダオって呼んでくれ」

「分かった、ダオ、ね」

「世話になった……んだよな? すまない、ありがとう。えっと…………ハニー愛しい人?」

「ぶん殴るよ?」


 心の! 距離感!

 距離感バグってるよ、この人。

 パッと見クールな美形キャラかと思ったら、冗談言うタイプの人だったわ。

 まぁハニティって言いづらいかもだけど。

 ……言いづらいか?

 

 まぁ、ともかく。あれだ。わたしたち、……初対面ですよね?

 そんなに距離感ゆるした覚えは……まてよ。

 なるほど分かった、この人……チャラ男だ。

 女慣れしてるタイプの人だ。

 気を付けないと!

 

「ははっ! ……悪い、冗談。ハニティって、何というか……魔女らしくないな」

「悪かったわね!」

「いや、良いってことだよ」

「?」


 ……良いんだ?

 さっきあんなに地味がよぉ! て言ってたのに。

 いや、正確には言ってないんだけど。

 いかん、幻聴が。


「……とにかく、ここはわたしの家。で、あなたはわたしの家の敷地内に倒れていた……どうして?」


 私有地じゃないところに勝手に住んでるので、あんまり強くは言えないんですけどね。ええ。


「それは、……」


 ダオがなにか言い掛けたのと同時。

 よほど空腹であっただろう、お腹の号令が響きわたった。

 ちょっと恥ずかしそうに頬を掻くダオは、さっきより子供っぽく見える。

 ……母性? いや、断じて違う。

 違うけど、弱っている人には優しく。大事。


「……はぁ。とりあえず、先に食事にしましょう。話はそれから」

「え」

「なによ、要らないの?」

「いや、そうじゃなくて……」

「文句あるなら食べなくていいわよ」

「……いや、頂く」

「はいはい」


 何か言おうとして、急に素直になった。

 なんだなんだ、毒なんて盛らんぞ。


「作ってくるから、もう少し待ってて。なんなら家の中見ててもいいわよ」





「おかゆだけじゃ……ちょっと寂しい?」


 さて。いざ作ろうと思って、気付いた。

 一品はさすがに、あの体格の良い男性には少ないか?


「体調的に量は食べれないだろうから……。メインはこれでいいしスープも兼ねるとして、……副菜とか?」


 ハーブや薬草は、いろんな効果を複数の箇所に効くように持ち、それがゆるやかに体に作用する。

 だからといって、体調や体質をまったく考慮せずになんでもかんでも組み合わせると、良くない場合もある。


「聞き取り調査しとくんだった……。ってなるとシンプルイズベストよねぇ……。外傷は無さそうだし……」


 あ、この前採ったゴボウがあったな。

 いい感じに甘くして、ゴマかけたらバランス良さげ。

 あ、砂糖じゃなくてはちみつ使うともっと良い?

 なんか、前世の記憶があるとポンポンとアイデアが浮かぶな。


 なぜかは知らないけど、こっちの世界にもしょうゆだのみりんだの、似た調味料があるのよね。

 もちろん米があるから、酢もある。

 他の国からの輸入……というか、大魔女たちは世界を飛び回ってるから、そのお土産でもあるんだけど。

 名前分かんないから、勝手に日本名で呼ばせて頂く。

 以前は「甘くなるやつ」とか「甘くて塩気のあるやつ」とか言ってたな。

 塩とかは元よりふつうにあります、ええ。


 日本とか、日本にこういうの伝えた国とか……。

 東洋に近い国が、どこかにあるんだろうな。

 森に引きこもってて他国の事情詳しくないんだけど。


 ……まぁ。他人事で言ってるけど、いずれは自分も世界飛び回るんだろうけどね~ははは。


「ささがきって、こんなんでよろしいか?」


 めちゃくちゃ良く洗ったゴボウの先に、ナイフで縦に切れ目を入れ、器に貯めた水には酢を回し入れる。

 鉛筆を削るように切ったそれを酢水に入れていく。


 ちょっと温めたフライパンにはごま油を入れ、水気をよーくきってからゴボウを投入。


「おりゃっ」


 水と油がけんかしないよう祈り、割と強火で炒める。

 火通りづらそうだし、強火で良いよね。うん。


 いい感じに炒めたら、混ぜておいたしょうゆとみりんを入れて。

 味が染みて汁気がなくなるまで、もうちょい炒める。


「はちみつって、どのくらい入れるんだろ」


 汁気がなくなったので、フライパンを火が掛かっていない方の台に移して、はちみつで味を調える。

 とりあえず、一周。

 んで、混ぜて味見。


「……うん、美味しいじゃん!」


 わるくない。

 むしろ、美味しいぞ!


 ゴボウって噛みごたえあるし、たしか毒素の排出も促す効果があったから、外傷がない彼にはぴったりじゃないか。


「……ありがとう、頂戴します」


 大地の恵みに感謝。

 

 動物は、生命を維持するため栄養──食物を食べる。

 けれど、植物は光合成によって自らで栄養を作り出す。


 わたしたちは、直接。もしくは、間接的に植物の恩恵を受けなければ、生きていけない。


 前世でも分かってはいたけど、ここまで考えが及んだことはなかった。

 きっと今のわたしが、誰よりも大地の恩恵を感じ、そして他者に伝える役目を担う恵土の魔女を目指しているからだろう。

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