三余 

窓から見える日本海は、程よく荒れた波を浜に広げる。

 空は重そうな暗い雲で覆われていて、しんしんと雪が降っている。

 彼女、三余の書斎で本を借りて読んでいるわけだけれど、なんだか感情まで文章になってしまうように感じる。

「そろそろ飲み物入れてこようか。」

 そう言って立つ三余に、二つのマグカップを乗せたトレーを持ってついていく。

 ただ飲ませてもらうだけは申し訳ないと思い、運ぶことは任せてもらっているのだ。

「ありがたいけれど、本当に良かったの?運ばせちゃって。」

 かまわない、むしろお茶を入れてもらえてうれしい。と素直に伝えると。

「わ、私はただ自分が飲みたいから用意してるだけで、別に一つ増えたところで・・・。」

 と、もごもごと顔を赤くしながら言っている。

 書斎に戻って、しばらく本を読んでいると、互いのスマホに連絡が来た。

 私のところには、『数日帰りません。三余ちゃんと過ごしてね。By両親』と・・・。

 どういうことだ?と、三余と話そうと思ったら、三余が真っ赤な顔で自身のスマホを見ている。

 どうしたのか聞くと。

「あ、いや、なんか、両親が、帰らないから仲良くしててみたいな、こと、送ってきて。」

 三余もわかりやすく混乱している。

 私にもそんな旨の連絡が来た、と伝えると

「そっかぁ、じゃぁ、わざとかぁ・・・。それじゃぁ、もう、何が起きても事件じゃないかもね・・・。」

 と顔が赤いままつぶやく。

 偶然か、今まで読んでいた本が、雪深い冬の夜に、男女二人が密室で殺人事件を捜索する内容だったため、私は、この家に何か秘密でもあるのか、聞いてみた。

 しばらく困った顔をした後、何かを閃いたような顔をしてから口を開いた

「うん、そうらしいんだ、屋根裏に何かがあるみたいで・・・。」

 やはり何かがあるのか!なら早く行かないと、寝る時間が無くなる。そう思い、屋根裏への階段を探そうとするが、それを三余が止める。

「何かあったら危ないし、二人じゃ何もできないかもしれないから、調査は両親が帰ってからにしましょう?」

「それより私、ホラー展開は苦手で・・・。」

 そういえばそうだったと思い出し、この書斎に布団を二つ持ってくることにした。

 すでに暗い時間だったので、敷いてそのまま寝ることにしたのだけれど、三余がこちらの布団に入ってきた。

 さすがに一緒の布団で寝るのは・・・と止めようとしていたのだけれど、

「やっぱり、少し怖いです。」

 と、若干わざとらしさが見えるような、それでも少し怯えているような声を聴くと、断り切れなかった。

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