黄鍾
二人が見ているのは、緑に錆びた、銅の鐘。
やっぱりここのも、緑だった。
「やっぱりもう、全部錆びてるかなぁ。」
力なくそう呟く彼女、黄鍾は、自身の名前である黄金の鐘を探して一緒に旅をしている仲間である。
とはいえ、どこまで行ってもその鐘は緑に錆びていて、元から黄色をしていないことがわかる。
そのためもう、二人してあきらめムードであった。
「どこ探しても無駄ならいっそ、自作するしか・・・。」
彼女がどこまで本気なのか、黄金で鐘を作るのか、もしくは塗装するだけにとどめるのか、私にはわからない。
二人して暗い顔をしながら今日の宿にチェックインして、それぞれベッドで脱力する。
「ねぇ、一緒に入る?」
唐突の発言に驚くものの、分かりやすいリアクションを取れるほどの体力は残っていない。
あほなこと言うなと制すると
「なんかもう、どうでもいいんじゃないかなって思えてきちゃって。」
今まで日本中旅してきた黄鐘がこんなこと言うとは、かなりネガティブになってるなぁ。
「だからもう、いっそ何があっても心は動かないのかなぁって。」
らしくない。なんて言うと、天気予報しか映さなかったテレビが、この土地の姉妹都市である、ヨーロッパのどこかを紹介していた。
そこに映っていたのは、小さいけれど、はっきりと音を鳴らす。金色の鐘だった。
私は、きれいだけど、きっとこれじゃない。そう思ったのだが、黄鐘は違ったようで
「世界・・・!そっか!日本に無いなら世界中見てみればいいんだ!」
行動力の化身が帰ってきた。
「そうだよ、三蔵法師だって、日本を離れて天竺に旅立っていったんだ!私だって!」
うん、いつもの彼女が一番いい顔をする。
「ついてきてくれる?私の旅に。」
くれるよね!という顔は、私への信頼の証と言えるだろう。
悩まず、もちろんだと、即答する。
「やったぁ!じゃぁ最初はどこ行く?やっぱりヨーロッパだよね!」
はだけた服のまま次の計画を練り始めようとするので、それを制して風呂を優先させる。
それと、まずはパスポートを作らないといけないことを、伝えなければならない。
「これからの旅、もっと楽しくなりそうだね!」
無邪気な彼女は、空を駆け始める。
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