小春
子気味良い揺れと、適度な速度感。
窓に映る景色は後方へと飛んで行く。
「ねぇ、小春日和って、本来の意味知ってる?」
急に彼女、初霜小春は私にそう問うてきた。
もちろん私は知らない。てっきり4月とかのことを言うのかと思っていたが。
「うん、本当は旧暦の10月で、寒い中での暖かい日をそう言ってたんだって。」
「今日みたいだね。」
そう微笑む彼女の顔が、柔らかく温かいようにも見える。
伸びる髪は日を透かしてきらきらと輝いている。
「でも、旅行するにはちょっと早かったかな?」
鉄道会社の乗り放題チケット発売その日に旅行を始めたため、旅行客自体が多くなかった。
そのせいか、彼女が「雰囲気が足りない」と思っているのだろう。
とはいえ、今向かっている場所も、旅行先としては使われることが少ない場所であるため、人が少なくても気にすることはない。と伝える。
「そう、なんだ・・・。人少ないんだ・・・。」
なんだか様子がおかしい。いつもならテンションが下がっているところだが、今はむしろ、何かを思いついて照れているように見える。
どうしたのか聞いてみると
「なんだか、まるで、二人の家を探してるみたいだなぁって・・・。」
二人して照れる、急にそんなこと言われて照れない人など少ないのではないか。
「ご、ごめん、今のは気にしないで、勝手に妄想しちゃっただけだから。」
それを素直に言うのもどうなのか、と思ったが、もう手遅れというものだ。
幸い車内には人が少ないため、こんな会話をしていても気にしてくる人はいない。
車内アナウンスが流れ、もうすぐ目的の駅に着くらしい。
置いておいた荷物を持って、出る準備をする。
こんなところに荷物を忘れたら、いったいどこに取りに行けばいいというのだろうか。
電車が止まり、空気の音とともに扉が開かれる。
一歩外に出ると風が吹いた。
冷たい冷たい冬の風が。
「さむーい!」
そう言いながら嬉しそうに私に抱き着いてくる小春は。
春の陽気を思わせる暖かさだった。
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