流火
浴衣少女が、家の境の塀を飛び越えてやってきた。
「お待たせ!待たせてないよ!」
自信満々にそういう彼女は、朱を基調とした浴衣を身に纏っているが、膝や太ももが見える程度にははだけてしまっている。
驚くほど美しく引き締まっていて、『流星』と言われるほどの彼女の努力が明確にわかる。
「ちょっと、そんなにレディの足を凝視したらただの変態だよ?」
さすがに注意を受けてしまった。とはいえ、そんな恰好で出てくる方も出てくる方だ。と注意すると。
「それはまぁ、そうだけど。別に祭りに行くわけじゃないから、いっかなぁって。」
随分とざっぱりしているというか、雑というか・・・。
「それよりさ、短冊と紐とペンと笹ある!?あるよね!」
もちろんだ。と、いつも通り用意してあると伝え、手渡すと、慣れた手つきですぐに書き終え、飛びながら笹の高い場所に付けるという芸当をやってのける。
「よし、今年も準備完了だね!」
毎年のことなのである。
しばらく無言で星空を眺める。
都会というわけではないので、問題なく天の川を観察できて、ほかの星々もきれいに見える。
そんな星は、彼女の瞳の中にも見えた。
と、星を見ていると、彼女と目が合ってしまった。
「どうしたの?なんか変だった?」
別に。と誤魔化すと、不思議な顔をしてから、再び空を見上げた。
やっぱりその横顔が、毎年きれいになっていく。
「私の名前さ、冬には沈む星の名前だったんだ。」
一人で、誰に伝えるでもなく話し始める。私はただ、たまたま聞こえているだけとして聞いている。
「だからさ、ちょっと怖いの。これから先、上手くいかないんじゃないかって。」
「さそり座のα星アンタレスとからしくて、9月ごろにはもう無いんだって。」
でもその星が、炎と言われるほどの赤い星が、しっかりと目に映る。
だから私は、彼女の手を握る。
消させないと、消えるはずがないと、私が応援し続けると、そう伝わるように。
「ありがと。ちょっとネガティブになってたね。」
伝わったのかはわからないけれど、彼女の表情に雲は見えなくて
「うん、そんな言葉遊びなんかに負けるわけないもんね。一緒に頑張ってきたんだから。勝ちたいんだ。」
瞳には、オリオン座が浮かんでいた。
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