月を君に

埴輪モナカ

陽氷

 少し早めの夏祭りに参加していた。

 彼女は浴衣で参加していて、私も無理やり和服にさせられた。

「君も似合ってるね。」

 そう、褒めてくれるけれど、陽氷(ようひ)の浴衣が誰よりも似合っているように見えた。

「早く来た夏祭りなんだし、速く楽しもう!」

 彼女曰く、楽しみにしていた祭りなんだとか。

 陽はまだ赤く、屋台だらけの境内を照らしている。

「あ、飲み物売ってる!そう言えば私たち飲み物持ってくるの忘れてたね!」

 言いながら手を引かれるので、抵抗せずについていく。

 何を買うか聞くと、陽氷は水と氷と飲み物の入った銀のたらいを真剣に観察していた。

「これにする!」

 そう言って見せた二つは、どちらもよく冷えたラムネだった。

 代金を払って、おじさんが「まいど!」と返したのを見てすぐに、

「おりゃ!」

 と、お茶目な声とともに、私の首筋にラムネを当てられる。氷のようによく冷えていて、全身が震える。

「いひひ、良く冷えてるでしょ!」

 選んでくれてありがとう。と、頭を撫でると、みるみる顔が赤くなっていった。

「そ、そういうのは卑怯・・・。」

 言いながら自分のラムネを顔に当てて冷やそうとしている。

 しばらく食べたり見たりしながら祭りを楽しんでいると、本殿の方で結婚式をしていた。

「わぁ、あれすっごいきれいだね。」

 目を輝かせながら眺める彼女の横顔が、よっぽどきれいに見えたのだけれど。

「私の方見てどうしたの?」

 視線に気づかれてしまった。何とか誤魔化さなければ・・・。

「なぁに?私があれ着てるの想像してた?そんなに好きなの?あの服。」

 とりあえず気付かれなくてよかった。


 長々と楽しんでいたら。いつの間にか日は落ちていて。

 海からの冷たい風がさっぱりととおっていく。

「うぅ・・・。」

 どうやら、さっきのラムネのせいで冷えてしまったらしい。

 念のためにと、持ってきた上着を陽氷にかける。

「え、あ、ありがとう。」

 上着をしっかりと握って、体に巻き付けているあたり、想像していたよりもずっと寒かったのだろう。

 夜の衣替えは、まだもうすこし、先かもしれない。

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