異世界に転生したら偽科学が強すぎて現実の魔法があてになりません!

潔癖 解

第1話 異世界転生

# 偽科学の始まり


2000年代前半。フェイクニュースや偽科学は、手軽に使えるインターネットと巨大なSNSによって強力に拡散した。

また、嘘を広める宗教団体Legitimate preacher of truth(正当な真実の伝道者の意)通称、レプトルによって引き起こされた事件によって、それまで民間任せだった政府が積極的な取り締まりを行うことを決定した。

そう、俺が働いている職場がこの研究所である。

所属は偽科学を専門に研究する偽情報研究所偽科学対策課である。

偽科学に関する情報を集め、国民に注意喚起を促すことが大まかな仕事である。

やりがいはある。新たな偽科学を発見するのは嬉しいし、これが国民のためになっているのは分かる。だが、毎日毎日、触れたくもない情報と人に仕事として触れねばならない。しかも、薄給で。


「ファクトチェック部門でまた自殺者がでたらしいわよ」

「えー今年で4人目じゃん」


研究所内ではファクトチェック部門があり、そこでは有名人かつ拡散力の高い人のSNSで投稿された数多の投稿を保存、検証していく。しかし、激務ゆえに大抵の人は退職するか、鬱を発症し自殺していった。

日本では自殺者が毎年のように出るが、この研究所は他社の何倍もの自殺率を誇る。なぜなら、情報収集するのは派遣の人間だ。まさしく、俺も派遣された人間である。もしも、ストレスを貯めるのに給料が出るなら、今頃大金持ちだろう。時給制だから、貧乏だがな。

どちらの部門が楽か。いやどちらも変わらない。くそったれどもが、くそみたいな情報で儲け続ける限り、この仕事は無くならない。


「みんな消えてしまえ!こんな物作った奴もみんな、みんな!消えちまえ!」


誰かが叫んでる・・・いや俺が叫んでる?いつの間にか叫んでいた。まあ、こんな職場だ。叫びたくなるだろう。となぜか俺は客観視していた。

周囲を見渡すと、皆おびえたようで、どこか冷めた目でこちらを見ていた。

俺は冷静になり、席に戻ろうとしたその時だった。


何・・・急にめまいが・・・

急に立ち上がったのと、怒りで血圧がおかしくなったか・・・

心臓の鼓動が激しく聞こえる。その音はまるで・・・


「胎動のようだな」


# 転生


「えっ・・・ああ、そうか」


思い出した。

俺は転生していたのだった。

5歳になったとき、ようやく記憶が戻ってきた。



「コークちゃん、どうしたの?」


「いえ!どうしたこともないですよ」


「そう?・・・あっ!アイリちゃんが遊びに来てるわよ」


「えっ?今行きます!」


町の外の丘にぽつんぽつんと二軒家がある。それが俺の家とアイリの家だ。

町の子どもとは面識が無く、幼なじみはアイリだけである。

ところでアイリはまあまあかわいい。いや、かわいい。

断言しよう。俺はアイリと結婚する。この物語の流れだと結婚するはずだ。

そして、アイリの膨らんだお腹が・・・見える見える見えるぞ!

やれやれ。俺は変態過ぎるぞ・・・懐かしいな。前世の俺が小学生の頃、エロ博士と呼ばれていたのが懐かしすぎる。まあ、それのおかげで人生が壊れたのはここだけの秘密だ。


「コーくん。こんにちは?・・・ど、どうしたのじろじろ私を見て・・・」


「いやなんでもないよ。アイリ、こんにちは。そしてようこそ」


「うん!お邪魔するね」



# 転機


「儀式?」


「そう。宗教団体の奴らが儀式で子どもの生け贄を捕まえているらしいという噂がある。本当かどうか分からないが、そんな噂があるということは実際に子どもが居なくなっている可能性がある。だからしばらくは外出禁止だからな」


「アイリは?」


「アイリの方もしばらく閉じこもるようだ」


「じゃあ遊びに行けないの?」


「うーん、それは許可しよう」


よかった。将来の奥さんと会えない日々があるなんて耐えがたいからな。


そんな日が続いたある日だった。


「アイリがいなくなった!?」


「ああ、総出で探知系の術者に探してもらってる」


いや、アイリ。嘘だろ。

アイリが連れ去られた。

アイリはアイリはアイリはアイリはアイリはどこ?

急激に俺の心が冷え、俺に何か能力が開花したような気がした。


「アイリの場所、わかる」


「おい、コーク」


父親の制止を振り切り、外へ飛び出した。

都合良く手に入れた能力。これを使う他ない。

急激に情報が俺の頭に入ってくる。

宗教団体なんて嘘っぱちだった。貴族の連中が貴族の子どもが犯した罪をかき消すためのカモフラージュだった。

アイリは洞窟に連れ去られた。

アイリは無事。

貴族連中の子どもは庶民の子どもを拷問にかけて最後は殺している。


「くそっ腐った野郎どもめ!」


俺は走りながら入ってくる情報に怒りをぶつけていた。


洞窟の前まで来た。

まだ、アイリは無事。

しかし、相手は5人いる。こちらは1人。


「何か・・・なにか他に力をくれよ!神様!」


都合の良い能力を1つ手に入れたんだ。もう一つぐらい・・・

だが願いは届かないことを察した。


「くそっ!」


俺は冷静になり現実的な思考に回帰する。

俺は何も持っていない。

俺にできること。

それは前世の記憶から引き継いだ嘘を使う側として実演すればいい。

急に飛び出してきたから持ち物は服だけ・・・

服か・・・


「あ?お前は誰だ?」


「俺はそいつを取り返しに来た者だ」


「はぁ?お前らやれ!」


「いいのか?この服をこすると火が出て辺り一面燃え上がるぞ」


「そんな訳ねーじゃん」「馬鹿にしてるのか?」


少しでも時間を稼いで、アイリが傷つくまでの時間を稼げたら。

大人が来るまでの時間を稼げたら。

敵がこちらへ向かってくる。もう猶予はない。


「ならお前ら燃えちまえ」


服をこする。服はこするだけでは燃えない。いやこの世界では燃えないはずだった。


ブゥウォウ


手に持っていた服から火が出る。

火は床に広がり、火の海ができる。


「うおおおお」「逃げろ!」


逃げ出していく。


「アイリ!」


アイリの元へ駆け寄る。

まだひどいことはされていないようだった。

アイリの隣には残虐に破壊された死体があった。

アイリは目隠しをされて見てはいないようだ。


「よし、逃げよう」


「うん」


アイリを抱えて逃げた。

あの後、どうなったか分からない。

だが、アイリは体はなんとも無くても心に深い傷を負って引きこもった。

俺も外に出る気力も無くなり、家に閉じこもった。


町では火を出す悪魔が現れたと話題になっているらしい。

しかも子どもの姿をしているとも。

町の子どもは既に調べ上げられている。

ならば普段は町に出入りしない子どもは特段、疑われるだろう。

そして何をされるか分からない。二度と町には入れないだろうな。


このまま尽きていくのか・・・

せっかく転生したのにこのまま終わるのか・・・

そう思った翌日だった。


急に家の辺りが騒がしくなった。


「おぉ。久しいな」


俺の両親とアイリの両親が30名ほどの群団で訪れたリーダーらしき女性の元へ一同に集まって何やら話している。


俺は不思議に思って久しぶりに外に出た。

アイリの家の方を見ると、アイリが家の窓からのぞいているのが見えた。

アイリの元へ駆け寄る。


「アイリは知っているか?」


「あっ・・・おはよう」


アイリは首を振る。知らないらしい。

それにしてもアイリはかわいい。

リーダーらしき女性がこちらに来た。


「どうだ?わしと一緒に別の町に来ないか?」


「分かった。行くよ」


願ってもない幸運だった。


「よし、善は急げじゃ!」


俺の体を軽々と持ち上げ、荷車に乗せられそうになった。


「あ、まって。アイリも」


「アイリとは?」


「仲間だよ」


「よし、アイリとやらもここへ呼べ」


「アイリ、一緒に来てくれる?」


「うん!」


アイリも同じようなことを考えていたのだろう。


俺が考える・・・俺の力は偽科学を本物にする力なのかもしれない。

俺はそんなくそったれどもが使うような技術をアイリのために使おう。

そう誓った。


「元気でなー」


「達者でー」


両親らが手を振って見送った。


「まあ、俺たちの子なら大丈夫だろ」


「ええ、世界を救った我らの子がそう簡単に死ぬわけがありません」


両親らは世界を救った一行であった。


# 王都


「って王都じゃないですか」


「知らんかったのか?荷車にも装備にも王族のマークがあるだろ?」


「いや知らなかったんですよ、本当に」


王城へ入っていく。


「これから王女に会う。変人だから気をつけろよ、コーク」


通された客室で待つように言われた。

数分後。


「よし、向こうの準備ができた。コーク、行くぞ。アイリもついてこい」


「うん」「はい」


長い廊下を歩く。


「これから合う王女は鑑定の姫とも呼ばれておる」


「鑑定の姫・・・」


「まあ、会ってみれば分かる」


ノックをする。


「ほれ姫、鑑定の仕事じゃ」


「はいはい、分かりましたよ・・・って男の子?」


「そうじゃ、男じゃ」


「はぁ-(歓喜)」


「よし、おいで坊や」


「はぃ・・・」


なんだか嫌な予感しかしなかった。


「アイリはわしと一緒に来い」


「えーと、コーくん。また後で」


・・・


鑑定の姫と二人っきりになった。

そういえば、女性と二人っきりになるのは久方ぶりだな。

そんなくだらないことを考えていると、驚きの光景が広がっていた。


鑑定の姫が服を脱いでいた。それも下着も全て・・・いや下着はそもそもつけていなかったのか。


「って何脱いでいるんですか」


「?」


「君は私と結婚するんだ。つまり君は旦那だ」


「急に何を言って・・・?」


「そう、あれは10歳の頃だった・・・」


また急に回想入れてきたな・・・


「ついに自分の能力が分かり、鑑定を自分自身に使ったんだ」


「そしたら君と私が結婚しているのが見えたんだ!」


「しかも私は妊娠していた。いやしていないとおかしい・・・」


「いや、おかしいのはあなたの方だと思いますよ、姫」


「将来の旦那に裸を見られた位で困るも何もない」


「そ・れ・に、だ」


「アイリとやらも見えたぞ」


「・・・どうだったんですか」


さすがに気になる。


「いいのか言って?」


「姫が言い出したんでしょ!言ってください」


「ふむ、仕方ないな・・・彼女は旦那の第二夫人じゃ」


「へーそうですか・・・」


その未来まで生きていることに安堵した一方、いや俺と結婚するのか・・・やっぱりな・・・うんうれしいけど・・・


「ハーレムかっ!」


気持ちが高じて突っ込みを入れてしまった。


「ん?」


いつ仕掛けるのか。いつヤるのか。悶々としてしまう日が続くであろうと想像し、頭をかきむしるのであった。


一時が経ち。


「落ち着いたか?」


「ええ、でも裸なのはいい加減にしていただけませんか?」


「いやだ」


「これは旦那を鑑定するために脱いだんだ」


「えっ?鑑定するのに服を脱ぐ必要があるんですか?」


「こうすれば旦那のことを隅々まで調べることができるからのう」


裸体のまま俺に抱きついてきた。まずい。俺の息子は起立したままだ。気づかれてしまう。


「ほーら。目を閉じて」


豊満な胸を押しつけられて目の前が真っ暗になった。

急に眠気が来て、俺は意識を失った。

懐かしい夢を見ていた。あの頃の日々。正直思い出したくないものだ。


起きたら俺は姫の膝枕に顔を埋めていた。


「良かった。服着てる・・・」


「よせ。私も事が済めば服を着る・・・よ?」


なぜか最後の語尾の所で恥ずかしがっていた。なぜだろう。体がすっきりしたような・・・気のせいか。


「君は一体いくつなんだ?」


「旦那は8と聞いておる。それに30足せ」


「38歳?いや冗談を」


どうみても若かった。10歳くらいにしか見えない。


「姫としての宿命よ」


「宿命?」


「民の生命力をちょっとずつ吸い取っているのだ。それ故、能力を開花させた10歳から成長しない」


「それにしても出てるところは出てるというか・・・」


「ふん!失礼な奴よ。神もそこは分かってくれるのだろう。胸だけは成長した・・・よ?」


合法ロリ巨乳でエッチな話題には少し恥ずかしがるそんな女子、皆さん!ここに居ましたよ、ここに。


「さて、旦那が寝ている間に鑑定を済ませた」


「しかし分からぬことがあって・・・」


「これ何の文字だか分かる?」


紙には見た文字を姫が書き込んだようで、それを見せてきた。


「偽科学の伝道者」


紙には日本語で書かれていた。


「えーと?読めるの?・・・それってどういう意味?」


「天から授かった技術を伝え広める人のことを表しているようです」


とっさに嘘をつく。本当のことを言えば処刑される未来が見えるまでもない。


「まあ、やっぱりそうだったの!よかった。でも不思議ね。私でも分からない言葉で書いてあるなんて・・・」


おい、神よ。これは私への罰なのか?偽科学を・・・嘘を広める奴らを憎む私への罰なのか・・・


「ええ、不思議なこともあるものですね・・・」


俺はこの世界で嘘を吐き続ける。それが神の与えた力や役目であり、試練なのであろう。


俺は死ぬまで嘘を吐き続ける。俺は嘘を吐く。それが本当になる世界で。

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