④
ルイが、ついに起き上がれないくらいに衰弱してしまった。弱りだしたら早くて、僕は眠れない日々を過ごしていた。ルイは息が苦しいのか、荒い息を繰り返しながらベッドの上に丸まって、朦朧とする意識の中、寝たり起きたりを繰り返していた。
片時も離れず過ごしていたが、ついに食料が尽きてしまい、でも自転車で5分はかかるスーパーに行くのは心配で、走って1分で着くコンビニに行くことにした。
「ルイ、買い物行ってくる。すぐ帰ってくるからね」
眠っている彼女に一応声をかけてから、僕はカギと財布だけを掴むと、家を出た。落ち着かなくて、手あたり次第、日持ちするカップ麺や冷凍食品を買いこむと、アパートに向かって駆けだす。
アパートの階段を昇ると、僕の部屋の扉の前に何かが落ちているのが見えた。僕は嫌な予感がして走り出す。心臓がドクンドクンと嫌な音がたてた。
落ちていた黒いものを拾いあげると、それはルイがいつも着ていたワンピースだった。僕は持っていたレジ袋を落としたことも気づかずに駆けだした。
落ち着け!彼女はほとんどの時間を部屋の中で過ごしていたから、行くところは限られているはずだ。このアパートに越してきたのは大学に入学したとき。それから3年と少し、彼女と行った場所を順にたどれば……。
そのとき、ルイが今よりまだ少し元気だった頃に言っていた言葉が頭に浮かぶ。
『今日の散歩、あの花の公園に行きたいわ。きっと今頃大きな花が咲いているでしょうね』
きっとあそこだ!
僕は無我夢中で駆け出した。この暑い中だ、途中で倒れていたらいけないから、散歩の時と同じ道順を辿りながら公園に向かった。
公園の中央に位置する場所にある小さな池には、彼女の予想通り、見事な蓮の花が何個も浮かんでいた。
しかし、荒くなった息でいくら探しても、そこに彼女の姿はなかった。見当違いだったかと別の場所を探そうとしたとき、誰もいない公園の遊具に目がいく。
もしかして———
遊具の中に、僕が子どものころ泣いていたトンネルの遊具と、とても似たものがあった。しゃがんでトンネルの中を覗きこむと、砂まみれになった黒猫がそこに横たわっていた。
「っルイ!!」
オレは四つん這いになってトンネルを進むと、ルイをそっと抱き上げた。ルイはまだ温かいが、もう息はしていなかった。
オレは、ぐぅ、と情けない嗚咽を漏らし、ルイを力いっぱい抱きしめた。涙が次から次に溢れ出すのを止められないまま、僕はその場にしゃがみこんで、しばらく動けずにいた。
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