第5話 その後の子供たち
みなさんは、その後、Aさんはどうしたと思うだろうか。
Aさんにできる最善の方法は、両親に相談することだったろう。
でも、Aさんは現実に耐えられなくなって家出をしてしまったんだ。本当の子供がまだ生きていて、近くに住んでいることを両親には伝えられなかった。もし、二人がそれを知ったら、実の子供を引き取って、自分はあの異常な夫婦の子供になってしまう。これから一生付きまとわれて、大学に通いながら、仕送りをさせられる人生が待っているんだ。だから、Aさんは翌日には貯金通帳を持って、一人で九州に逃げてしまった。大学に通うだけなら、奨学金をもらったり、バイトをすれば通えるかもしれない。どうしても、大学には行きたかった。
Aさんは、途中の駅で泣きながら実家に電話した。
母親に「変な人に脅されているから、俺がどこの大学に入ったかは、お願いだから誰にも言わないで・・・。俺、その人たちから逃げて来たんだ・・・」と、懇願した。
「どこにいるの?」
「言えない」
両親はただ事ではないと警察に相談した。そして、捜索願いを出したけど、見つからなかった。
そしたら、Aさんがいなくなって3日後には、実家に住田(仮名)と名乗る中年の女から電話が来るようになった。毎回「息子さんいますか?」と、言うのだ。両親はその人たちが、息子の家出の原因だろうと思った。
「どちら様ですか?」
「ちょっとした知り合いです・・・。また連絡します」
そう言って2-3日おきに電話してきた。
「もう九州にいるんですか?」
「知りません。私たちも連絡取れないので・・・」
養母が応対していると、養父が隣で「電話番号聞いて」とメモを渡してきた。養母は機転を利かせて「じゃあ、連絡取れたらお知らせしたいので・・・電話番号教えてもらえませんか?」と言った。実母は連絡が欲しかったから正直に答えた。
「うちは電話がないので、呼び出しなんですけど・・・お願いします」
「お名前は?」
「住田です」
Aさんは、九州に着いたらアルバイト情報誌を買って、すぐに日雇いのアルバイトを始めた。家がないから24時間営業のお店などで時間を潰してしのいだ。寮に入れるようになったら、すぐに寮に移った。
そしたら、寮には実家から荷物が届いていたそうだ。それに、手紙が入っていて、銀行にお金を振り込んであると書かれていた。Aさんは両親に感謝したけど、電話できなかったそうだ。
両親は警察に相談に行った。それで、住田という女の電話番号を知らせた。警察はAさんがもともと捨て子だったことや、18年前の誘拐事件と関係があるかもしれないと思って調べてくれたそうだ。誘拐も保護責任者遺棄もすでに時効になってしまっていたのだが・・・。
「住田夫妻には息子が一人いるんですが・・・浩平という名前で、夫婦に全然似ていないそうなんです。もしかしたら、その子が誘拐された子供の可能性があります・・・私も会ってみましたが、何となくお父さんに似た感じがするんです・・・」
夫婦は驚愕した。そして、ぜひともその子に会いたいと思って尋ねると「DNA鑑定というのがあるので・・・やってみますか?」と警察の人に言われたそうだ。
警察は浩平君の所にも行って事情を話した。すると、浩平君はなぜ親たちが自分に対して愛情がないのか、ようやく腑に落ちたようだった。そして、DNA鑑定に承諾した。
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