第23話
「ソウルブレード!!」
アーラッドの真上に出たザインが、剣を一振りする。それは玉座ごと床を真っ二つに裂く程だった。しかし、アーラッドの姿はない。先ほどと同じだが、ザインが空中で身体をひねりながら、天井を見るが、そこにも居ない。
「ユリカ!後ろだ!!」
アインリッヒは叫ぶと同時に、ザインの後方で、宙に身を浮かべているアーラッドに向かい、剣を投げつける。グレートソードは強烈な重さで天井に突き刺さるが、またもやアーラッドの姿がない。
「陽光よ!全ての陰を消せ!シャイニングサン!!」
その時、ロカが何の断りもなく、両手を付きだし、いきなり眩しい光を放つ魔法を唱える。それと同時に、光に弾かれるように玉座の後方にある壁に、アーラッドが叩きつけられる。
「ぐあぁぁ!!」
身体中の骨が砕けそうな轟音だった。通常の人間ならこれで十分死に至るはずだが、誰も、それほど単純な結果に終わるなどと、期待すらしていない。その予想通り、アーラッドはスクリと立ち上がる。
「闇との契約者にありがちですね。闇を媒体とし、暗がりを自由に移動する。光に曝されたこの部屋には、貴方の移動する異空間は無くなる」
前方に手を出していたロカが、腕を下げ、シールドを張り直す。
「まさか幻影抹殺の光魔法で、この技が破られるとは……」
ロカが意外にも切れ者であることに、アーラッドは歯ぎしりをする。壁に叩きつけられたダメージは、それほど感じられない、しっかりとした足取りだ。彼の瞬間移動的な技は、封じることが出来たが、体力的にも可成りタフそうである。
「何事だ!王は居られるか!」
突然玉座の間の外から、そう言った類の兵士の越えた多数聞こえる。この騒ぎでは当然だ。
「玉座の間に誰か居るぞ!」
誰かがそう叫ぶ。すると、次から次に兵士達が部屋の中へと駆け込んでくる。
ザインが舌打ちをする。無駄な犠牲者が多数出そうな気配に、苛立ちを覚えた。アーラッドは攻撃を仕掛けてこない。まるで彼らが全員駆け込んでくるのを待っているようだ。
アインリッヒは、この間に天井に突き刺さった剣を抜き、ザインの横に並んだ。
可成りの兵士達が、室内に駆け込んだときだ。
「皆良く駆けつけてくれた!!五大雄は、中央の命により、我らが国王を暗殺し、この国を侵略しようとしていたのだ!国王は既に、彼らに屠られた!!私と力をあわせ!国王の無念を晴らそうでは無いか!」
タイミングを計ったように、アーラッドが声を高ぶらせ、大声で叫ぶ。最も恐れていた結果だ。この状況では、兵士達がどちらに着くかは、もう目に見えている。そして、兵達は次々と矛先をザイン達に向け始めた。
「お待ちなさい!!」
その時、一人の少女の声が聞こえる。兵士達がすぐさまザイン達に向けた矛先を引くほどだった。そして、兵達は次々に道を作り、そこを一人の少女がゆったりとした足取りで、通り抜けて行く。
「姫!」
「姫様!!」
兵士達の声が騒めくようにそう次々と言い放つ。半ば自然発生的に呟かれた感じも伺える。声の主が解ると、ザインは少し唾を飲む。父を失った彼女の反応が、少し怖かった。
通路を作った方角を向いたザインは、アーラッドに背中を向けている。ジーオンがそれをフォローするため、ザインの背後に回り、アンチマジックシェルを張る。
姫がザインの正面に立った。アインリッヒがこれを見守る。
姫はまず、短刀を取り出し、ザインの胸にその刃先を当てる。力を加えれば、彼の心臓は確実に貫かれるだろう。ザインも引こうとはしなかった。
「ユリカ!」
アインリッヒが短刀を叩き落とそうとする。
「騒ぐな!」
ザインはこれを制止する。アインリッヒを怒鳴ったのは、出逢って二度目くらいだろうか。熱いものに手を触れたように、アインリッヒは反射的に腕を引く。
「姫。刺すなら刺して良い。責任は俺にもある。だが、殺したのは俺じゃない。王が信じていたアーラッドだ。時間があれば説明をしたいが、今はダメだ。信じて欲しい」
身体を張ったザインだが、緊張に喉が乾いているのは、隠し切れてはいなかった。言葉尻が硬く、声が震えている。結論を一人の少女に委ねることに、不安があった。恐らく一七の少年の戦略に従えぬ兵士達と、その心境は、似ているものがあったに違いない。彼女がどれほど、事態を把握しているかである。
暗がりの中、互いの瞳だけが、真実を探しあう。
ザインは明らかに殺されることに危機感を感じている。それは姫の目からみても明かで、それほどザインの表情は強ばっていたのだ。
自分が死んだ後の展開が予想出来ないのだ。アインリッヒを一人残してしまうことにも、不安を感じた。しかしそれ以上に、国が滅茶苦茶になり、偽りの正義と大儀の上で、何万人という死者が出ることを恐れた。
「皆、避難を」
突然姫が口を開く。
「姫!」
己の望まぬ展開になったアーラッドは、全てから見放されたかのように、落ち着きを無くす。
「早く!!母上を安全な場所へ!私もすぐに参ります!」
そこには、絶対的なものを感じざるを得ないザインだった。沢山の兵が、戸惑いながらも忠実にこの場を去り始めた。数人の兵は、姫君の護衛のため残っている。
「あんた。良い指導者になるよ」
ザインは、嬉しくなり、ナイフを下げた姫を抱きしめ、額にお礼のキスをする。
「あ!」
これは少し行き過ぎたようで、姫は顔を赤らめる。それと同時に、アインリッヒは少し胸を痛めた。
「皆さん、どうかご無事で!」
姫はすぐに戦いの邪魔にならぬよう、顔を赤くしたまま、そこを立ち去る。ザインの横には、硬直したままのアインリッヒが居る。ザインはすぐにそれに気がつく。
「やくなよ。まったく……」
にやけた顔をしてそう言い、手際良くアインリッヒの兜を脱がせ、彼女の頭部を引き寄せ、ディープキスをする。
〈ユリカ……〉
他の女性に触れたことは許せないが、その意味合い、その時の感情を考えず、嫉妬してしまった自分が、少し馬鹿げて思えた。
「おい!巫山戯んな!戦闘中だぞ!!」
非常識なザインに、ロンの一喝が飛ぶ。
「へーい」
更に巫山戯た返事を返すザインだった。この時、ザインの脳裏から一つの不安材料が消えた。それは、城にいるのが、もはや自分たちだだと言うことである。被害は最小限に押さえられる。
「みんな、足場だけ考えて戦ってくれ。それと無理はすんな」
先ほどとは違い、引き締まった顔になるザイン。軽い雰囲気はもう無い。
ザインは一歩前に踏み出した。その瞬間、誰もがこう叫んだ。
「速い!!」
アーラッドが、必死で魔法を仕掛けるが、ファイアーボールは、直線的であり、攻撃範囲も狭い魔法である。今のザインの動きでは、単純に直撃させるのは、難しい。
この隙を逃すまいと、ロンとアインリッヒは、ザインの左右から挟み込むように、攻撃を仕掛ける。
「なめるなぁ!!クリティカルウォール!!」
キレたアーラッドが、目の前で両腕をクロスさせ、空気を凪ぎ払うように腕を横に広げだ。直後凄まじい風の壁が、ザイン達の目の前に立ち上り、彼らを弾く。大きく弾かれたザイン達は、床に背をこすりつけながら、壁際まで追いやられる。
アーラッドの起こした風の壁は、ただ、彼らをはじいただけではなく、天井や壁を容赦なく破壊しながら、再びザイン達に迫ってくる。彼ら、すかさず元居た位置に下がりる。
「風よ猛威となり!全てを塵とかせ!クリティカルウォール!!」
皆より、一歩前に出たジーオンが、アーラッドの魔法を相殺すべく、同じ魔法を、詠唱付きで唱える。しかしその威力は、アーラッドの非ではない。十分な手順を踏んでいるためだ。同じように周囲を破壊しながら、アーラッドの魔法を突き破り、更にアーラッド本人に襲いかかる。
「ぐぁぁぁ!!」
バチバチと激しい音を立てながら、凄まじい風の壁は、アーラッドの後方へと抜けて行く。アーラッド自身は、とっさに張ったシールドで、それを凌ぐ。
「ソウルブレード!!」
ザインがジーオンの右斜め後方から、剣を一振りする。銀色に輝く刃が、地を走り、一直線にアーラッドに向かい、一刀両断にする。彼の絶命を告げるかのように、肉の固まりが、床に落ちる音がする。
「魔力の割には、大したことはなかったようだな」
アインリッヒは、ホッと息を付き、防御の構えを解き安堵感に満ちた声でそう言う。
ロンは、衣服に着いた汚れをひどく気にした様子で、身体中を叩く。
〈単純すぎる。切り札も出さずに?〉
しかし、ザインは納得が行かなかった。一人目をこらし、引き裂かれたアーラッドを眺める。ザインは、アーラッドの切り札とは何であるかを、明確に知っているわけではなかったが、態々待ち伏せまでしていた男が、これほど簡単に倒れるのは奇妙だ。
なかなかアーラッドから目を話さないザインに、ジーオンが、そこに何かがあることに気がつく。戦闘体勢には入らないが、ザインの横に肩を並べる。
「知将の感か?」
「んなとこだ」
ザインがこう言うと、突然笑い声がした。
「ククク……アハハハ!!」
間違いなく無惨に切り裂かれたアーラッドが笑っている。全員がすぐさま戦闘体勢に入った。
身体中を触手のようなものでつなぎ止めたアーラッドが、ゆっくりと立ち上がる。そして、凄まじいスピードで、自己再生を始める。
「まさか、生命まで契約で保証されているとは!!」
非人道的な行為に、ロカが怒りを露にする。魔導師が魔導を追求しすぎるがための、ありがちな過ちである。ロカは、人間として生き抜き、その一生で己の道を、追求することが、正しいことだと信じている。アーラッドは彼の信念に反しているのだ。
「契約?まさか……、そんな低いレヴェルではありませんよ。私のは……、融合とでも、言っておきましょうか?ククク……」
契約の意味には二通りある。一つは魔法行使のための契約、もう一つは、己の力を強大にするための契約。両方とも、何かを媒体にすることには変わりないが、後者の場合、闇に見限られてしまった時点で、その者の生命は尽き果ててしまう多きなリスクがある。前者には、魔力、小動物等の媒体も考えられる。
立ち上がったアーラッドは、心なしか、ぶるぶると震えている。その震えは、己自身では制御しきれないもののようだ。
「道理で魔力のキャパシティが高いはずだ!だが、どうやって!!」
ザインは、底知れぬ恐怖を身体に感じ、額から自然と汗が流れ始めている。精神力で押さえているつもりだが、身体は言うことを聞いてくれない。
「それを語ったところで無意味でしょう?貴方方は此処で死ぬのですから!!」
ぐっと、ザインを睨み付けたアーラッドの目は、まるで猫の目のように細い瞳孔を持ち、瞳を金色に輝かせ、獣の牙を剥き出しにしながら、ニヤリと笑う。
肉体が次第に膨らみ始める。その事が確実に解ったのは、肉体の大きさに耐えきれなくなった衣服が、ビリビリと音を立てながら破れて行き始めた頃だった。
「はぁぁ!!」
狂ったように叫ぶアーラッドが、大きく口を開き、首を一振りしたとき、その口から赤い光線が放たれ、残された城の天井、壁を一撃で凪ぎ払った。限界まで姿勢を低くしたザイン達の上を、熱線が駆け抜けて行く。
光が放たれてから一秒ほど経ってから、剛雷が落ちたようなバン!と、空気が引き裂かれたような轟音が周囲に響く。
「なんてこっ……た……」
凄まじい音に、ゆっくりと身体を起こしたザインは、口を半開きにしながら呆然とする。そして、出しかけた言葉が、空気となり無に還る。視界に入る全てが脳裏に焼き付く。フラリと立ち上がっても、その光景は信じがたいものがあった。
「全部消しとんじまった……」
踏みしめているのは確かに王城の玉座の間の床だ。しかし、周囲を見渡すと、星空の煌めく夜だ。玉座の間の天井だけではない。その階層の全ての部屋が吹き飛んでしまったのだ。その目の前には、完全に悪魔化したアーラッドが立っている。
「ザインバーム。貴方には本当に腹が立ちますよ。こんな騒ぎになるはずじゃなかった。あなた達はもっと静かに殺されるべきだったんだ。おかげでエピオニアを潰さなくてはならなくなってしまいました。何しろ、五大雄を死に追いやった、悪国なのですから」
余裕があるためだろうか、やけに余計なことをベラベラと喋るアーラッドであった。だが、話が見えてこない。
「ザイン!相手が魔族である以上、物理的な攻撃しか出来ない俺達には分が悪い!ロカと老体を主体とした戦闘に切り替えよう!!」
ロンは未だ戦意を失ってはいなかった。不意に振り向くと、未だ全員戦意があるらしく、ザインに向かい頷く。それならば、未だ勝機はあるはずだ。理屈ではない。不思議とそんな気がした。
「よし、一個だけ試したいことがあるんだ。ジーサンとロカは弾幕を張って俺を援護してくれ、アインとロンは、ちっとばかり、休憩な」
ザインの考えに、二人は頷く。疑問はあったが、彼の考えに賭けることにした。
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