第22話

 エピオニア王が、予想外の行動をしたのが、引き金になったのは、言うまでもない。

〈策におぼれちまったか〉

 ザインはシーツをアインリッヒに預け、丸裸のまま立ち上がり、戦いに備える。

「待つのだアーラッド!そちの国を思う君の気持ちも解る!」

「黙れ!貴方は大人しく私の言うことを聞いていれば良かったのです。そうすれば何時までもこの国の王でいられたものを!」

 アーラッドの両手に炎の球が灯る。単純なファイアボールの魔法だが、屋内では、それで十分だ。

「アーラッド!貴様!ぐああ!」

 エピオニア王は、叫んだ瞬間アーラッドの投げつけたファイアボールにより、あっと言う間に丸焦げにされてしまう。外見以上の火力を持ち合わせている。彼がその当たりの魔導師とは、格が違うと、ザインに理解させるのに、十分な力量だった。

「てめぇ!」

 ザインは、まるでそこに剣があるかのように、柄を掴み矛先をアーラッド向ける構えを取る。そして、じりじりとアーラッドに寄る。

「おやおや、剣の持たぬ貴方が、私に挑むんですか?」

「ソウルブレード!!」

 ザインは彼の問いに答えず、大声を上げ、アーラッドに対し縦一文字に手を振り下ろす。一瞬の閃光が、アーラッドを真っ二つにする。だが、その場に倒れたのは、アーラッドではなく、真っ二つになった蛇だった。

「幻影!」

 アインリッヒが、身を整えながら、ベッドから飛び起き、ザインの側による。魔法は、遠隔操作によるものだ。予め仕込んでおいたものだ。

「ち!」

 ザインも服装を整え、二人で部屋を出る。すると、そこにはすっかり装備を固めているジーオン達がいた。ザインの剣もアインリッヒの鎧もそこにある。元々装備の軽いザインは、肩当てと、剣さえ装備すれば準備完了だ。アインリッヒだけが一時部屋に引きこもり、装備を整える。

「コレで、私たちを覗き見していた張本人も、解りましたね」

 五人揃った時点で、ロカが引き締まった声で言う。

「気にくわねぇ!何でわざわざ遠隔操作なんだ!部屋の外からじゃ、イチコロだった!」

「そりゃ無理じゃ、儂ずっときいとったから」

 意図も簡単に己の所業を口にするジーオンだった。アインリッヒが鎧の隙間から湯気を噴きながら、硬直してしまう。ロカは、それは知らないと言いたそうに外をむく。

「全く。この非常時に……」

 ロン一人が冷静に呆れ返っている。しかし、もしあの時に巨大な魔法の気配を感じていれば、間違いなくジーオンの防御魔法により、ザイン達は守られていただろう。複雑な気分だが、感謝しなければならない。

「それより奴は、何処だ?」

 ロンは、長い廊下を左右に見渡し、方向を見定めようとする。

「こう言うとき、敵さんのいる場所は、権力を象徴しているところさ」

 彼の質問に簡単に答えるザインだった。表情も特に険しさを出していない。そして彼は皆を先導し、玉座の間に足を運ぶ。皆眠り入っていっているため、実に静かだ。王妃と姫君には可哀想だが、事が済んだ時点で、王が死んだ事実を告げなければならない。

 ザインは玉座の間の扉を勢い良く引き開ける。アインリッヒがライトの魔法で、室内に明かりを灯した。

 そこには予想通り、アーラッドが玉座に腰を掛け待ちかまえている。嫌に口元だけがハッキリと見える。それは自信に満ちあふれたものだった。

「貴方が、真のノーザンヒルであったことが、誤算でしたが、それももう、どうでも良いことです。全ての準備は整いましたから……」

 不適に微笑むアーラッドだった。国王を殺したことの後悔など、みじんも感じられない。

 ザインは異常なムカつきを覚え、柄を握っていた手が鋭く剣を引き抜く。それが合図かのように、ロンもアインリッヒも剣を抜く。

〈変だ。魔導師にしては、間合いが短すぎる。この距離なら、奴の詠唱より、俺達の方が速い……〉

 ザインはそう思いながら、そして、こう言いながら、一気にアーラッドに飛びかかる。そして同時にこういう。

「防御しておけ!」

 飛びかかったザインに向かい、アーラッドが掌を差し出す。すると、その直後、火炎弾がザインを襲う。しかし、何かが起こることを直感していたザインは、紙一重でそれをかわす。

 しかしザインを襲う火炎弾は一発だけではない、次々に彼を狙ってくるのだった。アーラッドとの間合いを詰めるのを不可能に感じたザインは、無理なく火炎弾をかわすことの出来る位置にまで下がる。それは必然的に、元の位置になる。

 ザインがもと居た位置に帰ると、アーラッドの方も攻撃を仕掛けるのを止める。無駄な魔力消費を押さえるつもりだろう。

「ち!詠唱無しか……」

 ザインが舌打ちをしながら、忌々しそうに言う。

「詠唱なしのファイアボールですね。あれぐらいなら僕にも出来ますよ」

 すぐにロカが、相手の分析をしてくれる。詠唱を抜いた魔法は、たとえ単純な魔法であろうとも、高等な技術である。言葉のプログラムである詠唱は、いわば魔法行使に対する通訳である。この場合コレを省くと言うことは、火の精霊に直接話しかけることに当たる。もしくは威圧による絶対服従を強いるかである。つまり、アーラッドの魔力のキャパシティーの大きさを示す事にもなる。

「奴さん余裕だな。座ったままだ」

 ロンが一歩前に出る。だが、さらにアインリッヒが前に出る。

「見ていろ」

 そして、ザインと同じように、一気にアーラッドまで詰め寄る。彼も同じように、ファイアーボールで応戦する。しかし、アインリッヒはそれをかわすこともせず、強引にアーラッドとの間合いを詰める。全ての攻撃を鎧ではじき返しているのである。そして、己の間合いまで来ると、床を破壊しながら踏ん張り、横凪にアーラッドに剣を振るう。

「なに?!」

 しかし、彼に剣が当たったと思う直後、その姿は既に無い。

「上だ!」

 すぐさまザインの指示が入る。アーラッドはまるでコウモリのように天井にぶら下がり、掌をアインリッヒに向けている。

「はぁ!!」

 気合いの隠ったアーラッドの声と共に、雷撃系の呪文が、アインリッヒを襲う。彼女も重厚な鎧を身につけながらも、片手でバック転をしながら、元の位置にまで戻る。彼女が動く度に、床がひどく傷む。それほどの装備で、良く動けたものだ。一同はアインリッヒの力というものに、改めて関心してしまう。

 アーラッドはまたもや攻撃を止める。まるでザイン達をからかっているようだ。

「流石に、雷は怖いか」

 アーラッドは再び床に足をつける。

「ユリカ!彼奴の動きは魔導師を越えている!!」

「みりゃ解るさ。それより無茶すんな、ジーサン。ロカ、どっちでも良い、マジックシェルで、身を守りつつ、力を温存しておいてくれ、ロン、アインリッヒ。奴には未だ僅かな隙がある。俺が隙を誘う。二人は、奴を殺れ、なるべく早くな」

 ザインは、指示を出すと一気に突っ込む。しかし、先ほどのように単調に突っ込むのではなく、途中で最小限に回り込む形を取る。

 即座にアーラッドが応戦してくる。彼の視線が、ザインに向いたときだ。ロンとアインリッヒが、ザインの指示通り攻撃を仕掛ける。すると、アーラッドは大人しくしていた左手を上げ、両手で三人を牽制しに掛かるのだった。

 アーラッドの攻撃で、そこら中穴だらけになり始める。

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