27. 対抗依頼 その後
「うわぁ……気持ち悪っ」
「これ10メットどころじゃないよね? セレ、どれくらいだったの?」
「んー…………20くらいか? 雄経由じゃなくて
「ひえぇ……普段歩いてる道の下にこんなのがいたかもしれないなんて、ゾッとしますね……」
下水処理施設の件から二日後、新聞の一面には大倉庫に横たわる
確かに女王は巨大だった。魔物ではなく魔獣だと言われるのも納得の大きさである。ただし、大きくなりすぎて機動力は死んでしまったようだが――その分を
「結局原因は追加で造った予備庫の不備か。予想の範疇だったな」
「建築ギルドにも飛び火しちゃったねぇ。でも、魔物除けの処理に手を抜くのはだめだよね」
「ヌッ」「ヌフ」「ヌ?」「ヌヌ」「ヌン」
「地下深くだから大丈夫だと思ったのかもな。残念ながら、あんな地下まで掘り進んだ女王の
「魔物でも、“女は度胸”なのね〜」
「ハリナさん、たぶんそれ違います……」
朝食後の食休み、新聞を囲んで閑談しつつ文字を読み進める。
建築ギルドというのは文字通り“建築”――インフラ系統を担う組織である。町や国から委託されているらしいが、これは不祥事としか言いようがない。
予備庫以外の設備の魔物除けはしっかり機能していて無事だったようだが、それも“外の魔物”への対策の話。あのまま内部から侵食されていれば大惨事になっていただろう。
『なあ、今日はどうするんだ?』
(んー……資料室か、本屋でも探してみるか……本屋ってどの辺にあるんだ。まだ行ったことないのは南門通りの方か?)
『予定ないならよ、俺、“曲芸”っての気になってんだ』
(――ああ、中央広場で宣伝してるあれか。そういえば熱心に見てたな)
初依頼を終えた後だった記憶がある。中央広場で何人かが集まって大道芸を披露していたのにエナが興味を持ったので見物したのだ。
こちらの世界の曲芸はなかなか見応えがあった。魔術を使った鮮やかな演出、およそ大道芸とは思えないような空中に及ぶパフォーマンス。あれ以上のものを拝めるのなら一度足を運んでもいいかもしれない、と思わせるには十分な宣伝だった。
『あれ、今しか見れねえんだろ?』
(移動してるんだっけか……隣町から来たって話だったな)
『そうだ! 期間限定なんだ!』
(結構流行り物好きなんだな、お前――ん?)
視界の端に小さい飛行物体。
虫――鳥? いや、あれは確か――。
「あ、
「アメリアの彼氏じゃないの? 出勤前の愛のメッセージとかぁ?」
「へぁっ!?」
次第に速度を落とししていき、ふわりと止まったのはセレの左腕――
《セレ・ウィンカーさん。本日午前中、いつ頃でも構いませんので、ギルドまでお越しください。すでに予定がある場合は、お手数ですが、この
「残念、彼氏じゃなかったわねアメリア」
「べ、別に残念がってませんって!」
「なんだろ、
「だろうな」
解けた手紙にはメッセージと同じ内容の文章、そして手紙の締めに書かれた“先日の件に関してのお話です”という一文。
フローラリアの肉声が込められたこの
連絡先代わりに魔力、もしくは血紋登録をした媒体を交換し、その媒体をセットした専用の判子らしきもので印を押す。適当な形に折って空に放れば相手を目指して飛んでいくという。
飛距離は込められた魔力――手紙の材質、性能によるらしい。重要な書簡を飛ばすのは当然ながら推奨されていない。そういうものは郵便で配達してもらうに限るというのはどの世界も共通のようだ。
(予定、入ったな)
『ちぇっ、なんだよー』
(あの曲芸団も今日明日にどっか行くわけじゃないんだろ? 時間が出来れば行ってみればいいさ)
『……確かに、あと一か月って言ってたな。それなら大丈夫か』
「私も付いていこっかな。適当な依頼を探しついでに、ね」
「ヌッ」「ヌフ」「ヌ?」「ヌヌ」「ヌン」
『オワァッ! 急に寄るな!』
「こら、シャツに潜るな」
「セレとエナちゃんは仲良しだねぇ、ふふっ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「結局付いてくるのか。依頼はいいのか?」
「だって気になるでしょ? 今入ってる依頼の打ち合わせは午後からだから大丈夫だよ。いつもの指名だしね」
「ヌッ」「ヌフ」「ヌ?」「ヌヌ」「ヌン」
「早くに来ていただいてありがとうございます。お呼び立てして申し訳ございません」
「予定はあってないようなものだ。気にするな」
フローラリアの案内で応接室に向かう。どうも彼女に迷惑を掛け通しな気がして謝罪すると、「セレさんの件は私が進んで担当していますから」と返された。
僅かに色を差し、美しく微笑む彼女の視線の先には――意外と現金なのかもしれない。本精霊はよくわかっていなさそうだが。
「というか、なんでお前らもいるんだ?」
「私達が受けたのは対抗依頼だったからよ。必須ではないけれど、参加したパーティーは一緒に結果を見届けるの」
「あれ? もっと人数多くなかった?」
共に応接室に入ったのはアレク達新人パーティーだった。リィンの言う通り、先日の半分ほど――五人しかいない。
問われた彼らはどこか諦めたような、しかしやりきれないような顔をしている。
「……カーク達とは別れたんだ。俺達五人と、それ以外で」
「講習生だった時はそんなことなかったんだけど、最近のあいつらは、んー、なんつーか……」
「焦ってるみたいな……そんな感じだったよね。他の同期が頑張ってるのを見て、イライラしてさ」
「カークはちょっと乱暴なところはあったけど、シシーとレイはそうでもなかったのにね。彼らに釣られて他の子も愚痴ばっかになっちゃって」
「……いずれはこうなっていたのかもしれないわ。それが今回で明確になってしまっただけのことよ――ごめんなさい、こちらのごたごたにあなたを巻き込んでしまったような形になって」
央人族のアレクに
アレクとバルは剣を腰に差し、ヤコは短剣を携えた身軽な装備、ミスティは弓を背負い、フィーナは大きな杖を携えている。人種の被りもなく、前よりバランスがよく見える。全くの所感だが。
「前も言ったが、特に何も思ってないから気にするな。結果的にこっちがお前らを利用したんだしな」
「り、利用?」
「女王を探す手数に使った。人はいて損はなかったからな」
「え? 対抗依頼なのに、私達が見つけちゃったらだめじゃない?」
ソファーに腰を下ろし、フローラリアの淹れてくれた紅茶に口を付ける。対面に腰掛けた彼らは理解不能というように目をぱちくりとしていた――ただ一人を除いては。
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