25. 堕欲者の生態
「ヴッ……ヴァアー…………」
「うぅ……」
「ヌッ」「ヌフ」「ヌ?」「ヌヌ」「ヌン」
「あー……ありがとー……あー胸やけやばぁー」
「ほら、果実水だと」
「あぁーありがとぉー……はひぃ生き返るぅ」
『なんでこいつらこんなになってんだ?』
(酒は飲みすぎたらこうなるんだよ……人によるけどな)
『へぇー、セレは平気そうなのにな』
呻く死体達に果実水を配る。おかわりに応えるうちにピッチャーに満たされた果実水はすぐに底をついてしまった――様子を見るに、寝起きよりはマシになったようである。
「セレちゃん、足りそうかい? もう一本持ってきたけど」
「今ちょうど無くなったところだ。ありがとうダニエラ」
「いいのいいの。それにしても、ひっどい有様だねぇ! 生き残ったのはセレちゃんだけかい!」
「ウッ…………女将ぃ、声抑えて……」
「セレさんが……強すぎるんですぅ……」
からから笑う朝鳥亭の女主人、ダニエラの運んできた昼食にありがたく手を付ける。エナの分を小皿に分け、今朝南から届いたばかりという海鮮で作られたドリアを口に運ぶ。ちなみに他の三人は軽食である。
現在地は一階の食堂。時刻は昼過ぎ、休日がすでに半分終わってしまった。もっともセレはごく普通に日の出と共に起床し、モーニングティーを頂きつつ新聞の一面を確認し、新聞片手に宿までやってきたデイヴ達農園の人々の対応をし終えた後である。
「ははっ、やっぱりセレは潰せなかったか! そりゃそうだ、俺が負けたんだからな!」
「もしかしたらあの“耽溺の赤”もいけるんじゃないか? ほら、サニア100%のあれ」
「違いねえ!」
「おっさん共、声、でかい……!」
がははと笑うのはつんとした耳に央人族の子供ほどの背丈をした亜人族、
対称的な外見の二人だが、不思議と馬は合うようである。ゲオルグはハリナ達と同じく定期契約更新組で、ロジはリィンと同じく、ある時期は支店を構えているラウエル共和国で過ごすという。本店はデアナにあるが、一人住まいを買うより
この世界の暦はセレの世界と似ているようで少し違う。一週間は七日、週末は休日で、一か月は四週間というのはほぼ変わらないのだが、一年は十三か月存在するらしい。ロジはいわゆる“稼ぎ時”に合わせて行動しているそうだ。
「うぅ、こんなに羽目を外しすぎるなんて、恥ずかしいです……」
「あー…………途中から記憶ないわぁ。何の話してたっけ」
「私も忘れたぁ……」
――ギクリ。
「――アメリアの彼氏の話で盛り上がってただろ」
「はへぇっ!? そっそうでしたっけ!?」
「えっ、アメリアお前、彼氏いんのか?」
「そうだそうだっ! アメリアの彼氏だ! えーっと確か年下の……」
「あぁー、したねえ。年下で、確か五年目の――」
「ハッハリナさんっ! リィンしゃんっ!?」
許せアメリア――。
何食わぬ顔でスープを嚥下する。昨日の
『昨日なんかすっげえ絡まれてたよな、お前』
(ああ……酔っ払いの相手は疲れる)
『なんであんなに絡まれたんだ? セレ、なんか変な事言ってたっけか?』
(私がうっかりしてたんだ……元の世界と同じ感覚で話してたから……)
こちらの世界の人間――央人族の寿命は、元の世界とそこまで変わらない。魔力の高さで多少寿命は延びるとのことなので正確なところは不明だが、数が多い代わりに寿命は全種族で一番短いらしい。
(
『へぇ、長生き、いいことじゃねえか。変な事じゃねえだろそれ』
(いいこと……うーん、まあ、いいことか。……言われてみれば、現役でいられるのも長いってことだしな……)
『少ねえより多い方がいいだろ』
(んー……あんまり深く考えたことなかったな)
決して“死ななくなる”わけではない。ただ、死ぬ直前まで
基本的にその人物の
もちろん<
『セレは一番上のランクだから一番長生きってことだな、よかったじゃねえか』
(いや、それは個人差があるからわからんぞ)
『そうなのか?』
(ああ――いやでも、同じ
『じゃあセレもそれくらい生きるってことか』
(さあな。そもそも自分の寿命なんて、死ぬ直前にならないとわからないもんだ)
高ランクほど見た目が若いままの者が多いので、実は結構歳を取っていて、ベッドでぽっくりと亡くなった――と知人の訃報を風の噂で知るのもよくあることだ。いちいち年齢を聞くこともないので、本当に寝耳に水なのである。
セレは今まで生きてきてそういう事を意識したためしがない。
『ま、長生きすりゃあその分いいこともいっぱいあるってもんだぜ。オトクってやつだな!』
(気楽だなぁ……)
『精霊だからな!』
(精霊はどうなんだ。寿命とかあるのか?)
『んー? …………わからん! 死ぬ時が来たら死ぬぜ、たぶん!』
(ソッカァ……)
精霊は死ぬ時が来たら死ぬ。また一つ、この世界の雑学が増えてしまった。
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