第12話 一泊二日の旅

 新潟県と石川県のツアーは、土日の二日間だ。

 育子いくこは一泊二日の旅行の準備をして、金曜日の夜に拓斗たくとの家に泊まった。

 「楽しみだわ。」

 「土曜日は長岡ながおかで、花火を見るんだよね。」

 「そうね。兼六園けんろくえんは二日目って書いてあったわ。」

 「明日は早起きだね。おやすみなさいっ!」

 拓斗と育子は、同じベッドですぐに眠りについた。


 翌朝の土曜日は早起きをした。

 「ふぁ~あ。おはよう。」

 「おはよう!眠いけど、東京駅への電車の中で寝ようね。」

 「そうだね。俺、今からめっちゃ楽しみ~!」


 二人は並んで、歯磨きをした。

 育子の歯ブラシとコップは、もうすでに拓斗の部屋に置きっぱなしになっている。


◇◇◇


 二人は旅行荷物を持って、東京駅に朝十時頃到着した。

 その後、電車と新幹線を乗り継ぎ、『上越妙高じょうえつみょうこう』に到着した。

 「うわ~。いい天気!」

 「これなら花火も良く見えるね。天気に恵まれた!」


 その後は『長岡花火会場』に向かった。

 幸い、天気が良かったので、『長岡まつり大花火大会』は開催された。

 ドーン!・・・・・・パラパラパラ・・・・・・

 「うわ~。綺麗~。」

 「花火大会の花火、俺、超久しぶり!」

 拓斗は育子の肩を抱いた。

 育子はドキッとしながら、拓斗の手から伝わる体温を肩で存分に味わった。


◇◇◇


 ツアーバスに乗って、旅館に着いた。

 「先にお風呂入っておいでよ。」

 拓斗が育子を促した。

 「それじゃ、お先に。女湯に行ってくるわね。」


 育子が大浴場に向かうと、拓斗は育子の荷物からスマホを取り出した。

 電話帳を開けて、旦那の電話番号を探した。

 多分、偽名などでは登録していないだろう。

 「相馬、相馬・・・と。」

 相馬という苗字の名前は、『相馬光秀そうまみつひで』という名前しかない。

 「明智光秀あけちみつひで、みたいな名前だな。」

 ホストクラブのような名前の偽名で自分のスマホに記録した。

 急いでスマホを育子の荷物の中に戻し、拓斗は自分のスマホでゲームをやり始めた。


◇◇◇


 ガラッ!

 和室造りの引き戸を開けて、育子が大浴場から戻ってきた。

 「あ~。いいお湯だった~!」

 「日頃の疲れも、少しは取れた?」

 拓斗の声掛けは、いつも優しい。

 「疲れ、取れたわよ~!あ~、あっつい!窓開けていい?」

 「そうだね。少し風を入れよう。」

 「拓斗も入ってきたら?」

 「いや、俺はいいよ。」

 「え?せっかくの大浴場なのに。」

 「俺は、部屋の中の風呂に入る。」

 「そう。いや~、気持ち良かったわ~!ビール飲みたくなってきたわ。」

 「俺、自販機で買ってこようか?」

 「あ、そうね。部屋の中にはなかったんだよね。ありがとう。」

 育子は拓斗に千円札を渡した。

 「いいよ。ビールぐらい、奢らせてよ!俺だってホストとして働いているんだからさ。」

 そう言うと、拓斗は財布だけを持って部屋を出た。


 拓斗が冷たい缶ビールを三本買ってきた。

 「自販機、この部屋から近かったよ。全部飲んじゃったら、また買ってくるから。」

 「ありがとう。」

 「グラスは部屋にあるやつでいいよね。」

 「コーヒーカップでも、お茶を入れるコップでもいいわよ!」

 育子はお風呂が余程気持ち良かったのか、上機嫌である。


 ゴクゴクゴク・・・プハー!

 育子はグラスに注いだ缶ビールを勢いよく飲み干した。

 「いよっ!いい飲みっぷり!」

 拓斗は旅館内のホストの様になっていた。

 「あ~美味しい!」

 「どんどん飲んじゃって~!」

 拓斗が缶ビールを持ち、育子のグラスにビールを注ぐ。

 「あ~、ありがと!拓斗も飲もうよ!」

 「うん、じゃあ、もらおうかな。」

 育子が拓斗のグラスにビールを注いだ。

  ゴクゴク・・・

 「あー、冷えてる~!」

 「こういうところの自販機って、キンキンに冷やしてるよね!」

 「うん。美味うまいな~。」

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