第13話 豪華な懐石料理

 ガラッ!

 「お食事でございます。」

 仲居なかいさんが二人掛かりで食事を届けに来た。

 「すごいね。豪華ごうか懐石料理かいせきりょうりだ。」

 「こちらが先付さきつけ、そして前菜、お造り、炊き合わせ、焼き物、酢の物、そしてこちらは水菓子になっております。どうぞ、お召し上がりくださいませ。」

 二人の仲居は、それぞれの面前にトレイを置いて、お品書しながき通りに説明した。

 「失礼いたしました。」

 ピシャ。


 「・・・ちょっと、本格的過ぎたわね、懐石料理。」

 「俺にとって、人生最高の贅沢旅行ぜいたくりょこうになるかも!」

 「それじゃ、あらためてカンパーイ!」

 「カンパーイ!」

 二人はビールグラスを傾け、豪華な懐石料理に箸をつけ始めた。


 「美味しい!」

 「隅々すみずみまで行き届いた料理って感じだな。すげえ・・・」

 「うつわもいいわよね。」

 「えるよな。・・・いくちゃんと、こんなに贅沢な旅が出来るなんて、夢のようだよ。」

 「それは私のセリフよ。ホストクラブで、持ち上げてもらうだけでも夢見心地なのに、二人で旅行に来られるなんて、夢にも思わなかったわよ。拓斗のお陰で、なんとか生きられてるって感じだもの。精神的に、とっても支えられてる。」

 育子は少し、酔いが回ってきたようだ。


 「俺には、独身の彼女はいない。見てわかると思うんだけどね。彼女が欲しいからホストをしているわけでもないんだけど。正直、キャバ嬢とかは苦手なんだよね、俺。ちゃんとした職業にいていて、落ち着いた人生経験もある女性の方が、安心して付き合えるんだ。だけど、いくちゃんには、戸籍上の旦那さんがいる。だから、いわゆる不倫という形になってしまうとは思っている。どんな形であれ、旦那が居る女性を、彼女と呼ぶことはできないかもしれない。だけど、いくちゃんと居ると、心から安らげるんだ。」

 拓斗は食事の手を止め、育子の目を見て言った。


 育子はドキドキした。っているせいもあるのだが、心が揺れ動く。しかし、離婚は面倒くさいし、拓斗を養っていけるだけの財力は、自分にはない。公然と浮気をしていて、弱みのある旦那を金づるにし続けない限り、拓斗との関係を継続することはできない。拓斗とは、ずっと一緒に居られたなら幸せだろうとは思っているが、いつかは別れる時が来るのだろう、と思いながら、懐石料理を食べていた。


◇◇◇


 「ああ、美味しかった!」

 「ご馳走様でした!」

 食事を終えた拓斗は、胸の前で手を合わせていた。

 「それじゃ、お風呂に入って来るね。」

 「行ってらっしゃ~い。」

 拓斗は、大浴場のような、男性オンリーのコミュニティが苦手である。イケメンであるがゆえに、やっかまれるから面倒くさいのである。なので、部屋の風呂で汚れを落とすことにするという。


 「拓斗と、このまま関係を続けてしまって、大丈夫なのかしら。」

 

 「あ~、さっぱりした~。」

 拓斗が風呂から出てきた。

 「飲んでたよ~。」

 育子は三本目の缶ビールを開けて飲んでいた。

 「じゃあ、また買ってくるよ。」

 拓斗は風呂から出たばかりなのに、財布を持って自販機にビールを買いに行った。

 「幸せ・・・。旦那が拓斗の様に振舞ってくれるような人だったなら、結婚生活は幸せなものだったのかもしれないな・・・。」

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