第8話 疲労と衝動
約束した金曜の夜、
「こんばんは。」
育子がチーフに声を掛けた。
「ようこそ!いらっしゃいませ!拓斗ですか?どうぞこちらへ!」
チーフは育子に気付くとすぐに拓斗を付けた。
拓斗はまだ暗い表情をしていた。
「お姉さん、今夜も約束通り、来てくれたんですね。」
『
拓斗はナンバーワンになることを目指している。叱られて
「今夜もドンペリ、頼んじゃうから!」
拓斗の目が輝いて、育子を見た。
「ありがとうございます!ドンペリ、いただきましたー!」
拓斗は元気を取り戻した。
「お姉さん、ホントいつも、ありがとう!それから、今夜もうち、来てくれるよね。」
「今夜も、遊びに行ってもいいの?」
「もちろん!ちゃんと掃除もしておいたよ!」
育子は閉店まで酒と料理を頼んだ。この日はずっと拓斗を独占することができた。拓斗の横顔。サラサラな前髪。高くて綺麗な鼻筋。
◇◇◇
その夜もタクシーで拓斗の自宅に辿り着いた。玄関の扉を開けて鍵を閉めるや否や、拓斗は育子を酔いに任せて勢いよく抱き締めた。育子は夢見心地になり、拓斗の背中に両腕を回した。
拓斗は急いで育子の靴を脱がせると、お姫様抱っこをしてベッドに運び、半ば犯すようにして育子の肉体を
育子は、酔いの心地よさもあったが、その様になって欲しいというイメージ通りの現実が自分にプレゼントされたのかもしれないと感じて、『引き寄せの法則』なのかなあ、と
拓斗の抱き方は、前回よりも激しかった。
「い、痛い・・・。」
ちょっと痛かった育子が言ってみた。
「あ、ごめん・・・。」
拓斗は震えていた。
「ごめんね、さっき、少し痛かったかな・・・。」
「あ、うん、少しね。でも、もう大丈夫。」
「ごめん、少し寝るね。」
「おやすみなさい。」
拓斗はこの金曜の深夜、本当に疲れていたようであった。
しばらくして拓斗が目を覚ました。
「ん・・・。」
「おはよう。サラダ作っておいたわよ。」
「あ、ありがとう。」
「ホットコーヒー、淹れるわね。」
「ありがとう。ふぁ~あ、起きるかー・・・。」
拓斗は前を隠し、素早く下着を身に付けてズボンを履き、Tシャツを着た。
カッコいい男は、寝起きも爽やかでカッコいいのであった。こんなにカッコ良くて若い男と夜を過ごし、朝を迎えることが出来た喜びを、育子はこの日も噛み締めた。
「昨日、チーフの人から、何か言われた?私が店に入った時、何か話してたでしょ。」
育子は、拓斗が元気を無くした理由を
「あ、いやあ、実はね。・・・ああ、あれはね、店のホスト全員への
「そうだったんだ。私も、お店に行かれるときは行くようにして、拓斗だけを指名するから。私は拓斗にナンバーワンになって欲しくて応援しているから、他のホストの売り上げには貢献はできないけど。」
「嬉しいよ。俺だけのお姉さんで居て欲しいよ。」
拓斗は育子を抱き締めた。
「拓斗・・・。」
育子はまた夢見心地になった。
育子を、ベランダから笑顔で見送ったあと、拓斗はダイニングテーブルに戻って座った。
「次は国内旅行、その次は海外旅行。それからだな。」
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