第5話 酔っぱらって

 その夜も育子いくこはべロベロに酔っぱらってしまった。


 拓斗たくと育子いくこを支えながらタクシーを停めた。

 拓斗は自宅マンションの入り口に着くと、料金を支払い、育子を介抱かいほうしながら部屋に向かった。


 「ふ~やれやれ、酔っ払いさん。」

 育子を自室に入れた拓斗は優しく介抱した。

 「水・・・。」

 「あ、はいはい。」

 育子はミネラルウォーターのペットボトルを受け取ると、ゴクゴク飲み始めた。

 「あ~っ、天国にいるみたい!私、生きてる?」

 「生きてますよ!ここは俺の部屋の中です。」

 「そ~なの、拓斗君の部屋に私はいるのね、酔っぱらって。」

 「そうですよ。」

 「夢みたい。」

 「夢じゃないです。現実です!」

 「う~ん・・・。」

 すっかり酔っぱらってしまった育子は、拓斗に抱きついてしまった。

 「お姉さん、しっかりしてください!」

 「拓斗~・・・。」

 拓斗は深い関係になるチャンスだと思った。

 育子をベッドに運んでいった。

 しかしその夜は、横で眠るだけにした。


 翌朝、着衣の乱れはないものの、拓斗の横で目覚めた育子は、幸福感に包まれた。

 「おはよ。」

 ベッドで隣に寝ている優しいイケメンが、起きたての自分にこんな風に声を掛けている。

 「お、おはよう。隣で寝ちゃってたの?」

 「そうだよ。俺がベッドまで運んで。熟睡してたよ。」

 「・・・狭かったでしょ。」

 「いや、そんなことはないよ。お姉さんの隣は温かかったよ。」

 このような幸せな朝は、二度とないのではないか、と育子は思った。

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